
西村 今月のゲストは筑波大学大学院生の野本靖さんです。野本さんは香南市夜須町の出身です。大学では都市計画を勉強され、漁村の研究もされています。鉄道や自転車に興味をもたれています。
ブログ「今日も自転車は走る」やサイト「土佐の高知の鉄道なども開設されています。自転車の効用や鉄道や路面電車に大変興味を持たれています。
今回のテーマは「高知の元気の源は地方公共交通の最大活用である」ということでお話をお聞きします。
野本さんはブログなどで「ファアスト風土化」に警鐘を鳴らされ、高知市の中心市街地の衰退を心配されています。
しかし未だに商店街や行政は商業施設を市内中心街にこしらえ、駐車場を増やそうとしています。ファアスト風土化は車社会と関係があるのでしょうか?

(廃校が予定され、商業施設で再開発の予定?の追手前小学校)
野本 ファスト風土化と車社会化は切っても切れない関係にあります。高知でも、郊外店舗の乱立が激しくなったのは、高知自動車道が高知インターまで伸びてきたときと一致しています。北環状線などの幹線道路が整備されてから、一気に様々な店舗が進出し、
その象徴は、2000年末のイオンショッピングセンターの開業です。
何もない農地や荒地に道路を造って、それに沿った土地を利用してこそ、広大な駐車場を構えるロードサイド店が出店可能になります。
そして遠隔地からの配送を可能にする高速道路の存在も見逃せません。
ロードサイド店+車社会で地域も人々のライフスタイルも均質化し画一化します。これは、高知のアイデンティティを揺るがしかねない事態です。安い、便利だと言ってこの傾向に無批判に迎合するのは危険です。

西村 では高知の都市(とくに中心街)を日常的に元気にする為にはどうすれば良いのでしょうか?中心街に居住者を増やすことも必要であると思いますが。
野本 中心市街地も、商業施設や駐車場の整備を要求するなどどうも他力本願な体質が強いようですね。自分たちで街を魅力的にしようという意志があまり感じられないというか。旧態依然のことをやっていればだれも街には集まりません。
ただ郊外の真似をしても、再生は難しいでしょう。駐車場を整備するなど自動車に対応させることばかりの行き着く先は、郊外と変わらない、自動車が氾濫した画一化した空間です。

(全国ありふれた風景。香南市野市)
郊外とは完全に差別化した街を目指してこそ、元気になると思います。
私も良くは分からないですが、人々が安心して歩け、多様な文化ある、出会いがある、個人の営みがある、新たな発見があるような街、例えば、東京で言えば吉祥寺、西荻窪、自由が丘などの特色のある街が、参考事例になりそうです。いろんな文化人が、街中に住んでいてあちこちにその痕跡があって、それが街の個性を生み出しています。
高知では、日曜市やひろめ市場、大橋通り商店街など、高知の特色ある部分も多いです。それらと現代的なもの、新しい高知の文化などが上手に共存するようなまちづくりが近道です。またやる気のある人が開店できるように支援することも必要でしょう。
アメリカのポートランドhttp://www.geocities.com/NapaValley/7711/portland/index.htmlなんかでは、ただの倉庫街だったところが、10年ほどで商店が集積し、若者や観光客も集るスポットになったパール地区やそれに近接するノブヒル地区などがあります。多くは地元の個人店であるそうです。短期間に、街を活性化できるという良い実例ですね。
西村 高齢者は車社会で置き去りになります。高齢者にやさしい街とはどのような街なのでしょうか?障害者も出かけれるようになりますか?
野本 交通権という考え方があります。自由に移動する権利は、人々の基本的な人権の一つだという考え方です。
車社会はそれに対応しません。地方では車をもてない人、運転できない人にとっては、極めて暮らしにくくなっています。誰かの車に乗せてもらう移動では、自分の意志による移動とは程遠いものです。
バスなども運賃が高くて少ない年金生活ではそうホイホイ乗れるものではありません。
高齢者にとってやさしい街とは、歩いていける範囲か、ちょっと自転車に乗っていける範囲に商店街や銀行、病院などの施設がある街ですね。そして、店主や知り合いの人とも会って、気軽に会話できる街。さらに銭湯なんかがあるとよりいいですね。
そして、遠くに行く場合でも、安価に快適に利用できる公共交通があることです。これは高齢者だけでなくだれにとってもやさしい街を実現する必須要素と言っても過言ではないでしょう。
障害者の方にとっても、今の交通サービスではまだまだ厳しいでしょう。こちらの対応も真剣に考えなければなりません。
西村 環境にやさしい都市と、人にやさしい都市は同時に可能なのでしょうか?矛盾はしないものでしょうか?
野本 これは、全く矛盾しないと思います。便利な生活に制約が出る、我慢しなければならないことが増えると思われるかもしれません。しかし、不便ということは、見方を変えると、それ以前の状態と考えられます。
それは、以前はその状態が当然のことであったわけです。
もちろん生活を不便にすることなく、環境にやさしい都市は、実現できます。
郊外への拡散を抑えたコンパクトシティは、エネルギー消費を低く抑えることが出来るばかりか、ヒューマンスケールの街でもあります。便利でありかつ持続可能で安定的な地域社会です。
過剰な車社会は、地球環境に深刻なダメージを与えるだけでなく、騒音、子供の遊び場の減少など生活環境も破壊していますし、
かえって不便になったことも少なくありません。交通渋滞はその典型でしょう。スプロール化により、行政コストの圧迫にもつながり、地球環境、地域環境。財政の側面からトリプルパンチで負の部分を露呈しているのが、過剰な車社会です。

西村 野本さんは自転車の最大活用も言われています。自転車の効用はどのようなところにあるのでしょうか?
野本 自転車は、当然ながら人力のみで動かしますので、呼吸以外でC02を排出しません。窒素酸化物などの排出は皆無です。騒音、振動公害も発生しません。さらに走っても停まっても場所をあまりとりません。
経済的な負担が少ないことは、個人にとって大きな効用です。移動自体はどこまで行ってもタダ、購入費用も、修理費用も自動車に比べて、圧倒的に安上がりです。適切なメンテナンスをすれば滅多に故障しません。それでいて、歩くより楽に速く移動できます。究極のコストパフォーマンスを誇る交通手段です。
健康維持にも大いに貢献します。車に依存した生活は、滅多に運動しなくなります。これでは肥満などの原因になります。これに加えファーストフードを好む食生活は、著しく肥満体質を増やします。
自転車ツーキニストの人は自転車通勤を始めてから半年で83キログラムの体重が、68キログラムまで下がったそうです。
ドアツウドア、いつでも好きなときに使える随時性は、自動車と全く同じです。
ドアツウドアに至っては、自動車を遥かに凌駕しています。駐車場を探し回ったりする必要もないですし、何か気になるものがあったらすぐに止まることができます。出庫の手間を考えれば3キロ程度の移動なら自転車のほうがむしろ速い位です。
また、交通事故の減少も大きな点です。自動車が関わらない限り滅多に死傷事故は発生しません。それでも事故が発生していますが、多くは飛び出し、逆走、歩道爆走などのデタラメなマナー、ルール無視に起因しています。
天候に左右される、長い距離を走ると疲れる、大きな荷物が積めないなどの短所はありますが、あくまでも短所であり、害悪ではないことが重要です。自動車の場合の欠点といえば、害悪をもたらすものが多いのを考えるととるに足らない些細なことだと思います。
西村 高知の公共交通を最大活用して「環境宣言都市」を名乗る。二酸化炭素を削減する。それを世界に宣言するということなのでしょうか?
いまより車の通行量をおおよそ何%減らせればそれが可能なのでしょうか?

(東洋町長選挙は核廃棄物反対候補が圧勝しました。)
野本 今年に入って東洋町で高レベル放射性廃棄物最終処分場を建設する問題が、発生しました。反対派の候補が、当選し東洋町からは、一切この話はなくなりました。しかし、現実には原子力発電を続ける限り核のゴミは発生しますし、事故のリスクも付きまといます。本当の解決は、原子力発電の廃止に他なりません。
反対したからには、環境に優しい地域づくりを本気で推進するべきでしょう。
「我々は、原発などに依存しなくてもやっていけるんだ」と、いうことを実践すれば、国際的な評価も高まります。
世界の環境首都と呼ばれているドイツのフライブルクも、きっかけは70年代の原発建設計画が発端です。反対するからには、自分たちも環境に優しい生活を心がけなければと意識があってのことです。
環境政策に真剣に取り組み、CO2排出を激減させた都市となれば、世界で高知を見る目は変わります。
世界的に有名になると観光客も増えますので、高知県、四国の活性化につながります。この場合環境だけでなく他の取組みも必要ですが。
「エコで発信していく、食っていく」くらいの気構えがあってもいいくらいです。
どうせそのままほっておいても没落する一方だから、ここで一発大きく賭けようかという挑戦してみてもいいのでは。
高知は、山がちで平地が少ないためもともと線状に居住地がまとまっています。高知県東部地区も旧安芸線の駅を中心に街が発達した
経緯があるなど、意外と公共交通を活用した交通体系への転換は、抵抗無く出来るかもしれません。
なんといっても奈半利から宿毛まで鉄道が通じていますし、高知市内には路面電車があります。これを活用しない手はありません。鉄道路線を頂点に、フィーダー線にバス路線を位置づけた公共交通整備、駐輪場など自転車利用のサポート、パークアンドライドの整備、カーシェアリングの推進、啓発などによる意識改革などを組み合わせた、
交通政策を進めれば、高知都市圏で自動車利用を7~8割削減することも不可能ではないと思います。
もちろん市民の理解を深めること、合意形成を実現することなどは必須です。

写真は「土佐電鉄の電車とまちを愛する会」の浜田光男(てるお)さんに提供いただきました。
低床床電車(土佐電鉄)ハートラムです。
西村 地方公共交通での高知の特色、あるものを挙げてください。それをどう活用すれば高知は元気になれるのでしょうか?
最後にまとめをお願いします。
野本 なんと言っても、土佐電鉄の路面電車でしょう。現存する日本最古の路面電車でありますし、あのクリーム色の車体に、前面がカーブした
青のライン、腰部のあずき色、屋根の緑色の塗装で、丸みのあるスタイルの車両が、目抜き通りの中央を走る姿は、高知の街と一体化しています。テレビなどで高知が出てくる場合、路面電車が走る姿は必ず出てきますね。
しかし、車社会化とそれに伴う郊外化の影響で、年々路面電車もバスも乗客が減り続けています。最盛期の3分の1以下に減っています。
とはいっても、今高知市内で最も便利な交通機関は路面電車です。本数も多く、路面から簡単に乗れる、市内の拠点を結んでいるなど便利な要素はいくつもあります。高齢者の方にとっては、人気が高いみたいです。
今ある、路面電車の情緒や味わいを尊重しつつ、直通運転などで使いやすい交通機関に再整備していくことが、高知を元気にする秘訣です。現代的なLRTと古典的路面電車の共存といったところでしょうか?
また、ごめんなはり線と予土線も特色がある路線でしょう。どちらも車窓からの眺めは抜群です。それらの地域公共交通を、通勤、通学、通院、買い物、文化施設へのアクセスなどの生活に密着した生活路線として、さらにビジネスや観光にも最大限活用すれば、自動車の呪縛から脱出でき、そこに暮らす人々ももっと生き生きとしてくると思うのです。ひょっとしたら、世界一住みやすい高知県と評価される日も来るかもしれません。

(高知ー安芸間はかつて土佐電鉄は直通運転をしていました。野本靖さん写真提供)
(野本靖さんから関連情報をいただきました。)
<ポートランド市公式サイト>
http://www.travelportland.com/index.html
http://www.travelportland.com/japanese/home.htm
(日本語サイト)
<「高速道路無料化案」では、日本はかえって悪くなる>
湯川真一さんの評論ですが、高速道路無料化は、完全に時代錯誤であり、地球温暖化防止という観点からも逆行する。世界の交通政策は新たな次元に突入しており、鉄道などの公共交通機関の利便性向上を図っている。と説明されています。最後に、ポートランドやサンフランシスコの道路計画を変革させた住民運動について述べられています。
今、高知でも新堀川がクローズアップされています。高知で脱クルマ社会を推進していくならば、新堀川の暗渠化を中止に追い込むことがまず最初に突破すべき関門であるのは間違いないでしょう。都市のアメニティや景観保全を重視する都市計画へのパラダイムシフトの観点からも見逃せません。
ポートランドの自転車事情については以下のサイトが詳しいです。
(自転車交通のNPO)
(公的な市民参加機関)
(ポートランドのなぞ)
(公共交通の活用事例:ポートランド編)
富山で昨年新規開業した富山ライトレールの写真がございます。
カールスルーエに関しては、以下のサイトが写真も説明も豊富で大変分かりやすいです。
<独墺四都市紀行>
http://www16.plala.or.jp/caw99100/europa/2/index.html
http://www16.plala.or.jp/caw99100/europa/3/index.html
http://www16.plala.or.jp/caw99100/europa/3/karlsruhe.html
ポートランドについても、参考サイトをリンクしておきます。
<ポートランド市公式サイト>
(日本語サイト)
<Tri-Met Officall page>
ライトレールやバスの運営組織であるトライメットのオフシャルページです。
http://www.trimet.org/index.shtml
ライトレールの写真多数あり。
http://world.nycsubway.org/us/portland/max.html
http://trolley.net/annex/trimet.html
http://usarail.hmc5.com/city_portlandor_jp.htm
http://www.jterc.or.jp/koku/ht-report/or-st/oregon.htm
個人ページなどのリンク。
<持続可能なアーバンライフ>ポートランドより発信
<シアトルウオーカー:サンディがお届けするホットなシアトル情報>
<渡辺葉さんが語る「木漏れ日、炭火焼のピッツァ、魔法の森のポートランド」>
<渡辺葉のポートランド通信>
カールスルーエやポートランドについては、以下のページをリンクしておきます。
写真などもあり、いろいろと参考になるかと思います。
<わだらんの欧州旅行記>
<トラムと車が共存する未来>
<路面電車の課題と海外の事例>
<you tube映像>
http://jp.youtube.com/watch?v=H3tP0nsyW1c
http://jp.youtube.com/watch?v=GwBlF75Xtjo
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