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2008.10.02

大人の見識(阿川弘之・著)を読んで

 最近分別のある大人(おっさん)の無分別、非常識な発言が問題になっています。浅生内閣を5日で辞職した中山前国土大臣の言動など「無分別」「無礼千万」なもので、恥ずかしくなりました日本人として。

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 そんなどよんとした気分で図書館で本を借りて読んでいます。大人の見識(阿川弘之・著 新潮新書)です。そのなかでP38に「国家の品位」という項目がありました。著者が取り上げていましたのは、終戦時の首相鈴木貫太郎氏のことです。

 鈴木内閣成立の5日後にアメリカ大統領ルーズベルト氏が逝去しました。鈴木氏は同盟通信を通じて、ルーズベルト大統領の政治的功績を認め、「深い哀悼の意をアメリカ国民に送る」とした短いメッセージを送りました。海外で大きな反響を生んだそうです。

 スイスの新聞バーゼル報知は、
「敵国の元首の死に哀悼の意を捧げた日本の首相のこの心ばえはまことに立派である。これこそ日本武士道精神の発露であろう。
 ヒトラーが、この偉大な指導者の死に際してすら誹謗の言葉を浴びせて恥じなかったとは何という大きな相違であろうか。日本の首相の礼儀正しさに深い敬意をあらわしたい。」と(P40)

 このメッセージはナチスドイツを逃れ米国に亡命していた作家トーマス・マンにも衝撃を与えたようです。日本の首相を賛辞していました。

 ただ鈴木貫太郎首相は慎重に終戦工作をしていたため、施政表明演説とかには、本当の思いは出せませんでした。しかし彼が首相でなければ日本は終戦できなかったとも言われています。

 戦後彼の子息がまとめた鈴木貫太郎自伝にそれは残されているそうです。
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(広島・長崎に原爆が落とされても政府の周辺には玉砕を叫ぶ軍部が大勢いたそうです。)
 「国家そのものが滅亡して果たして日本人の義は残るであろうか。ローマは滅びた。カルタゴも滅びた。カルタゴなどは歴史的にその勇武を謳われているが、その勇武なる民は今いずこにあるだろう。一塊の土と化しているに過ぎないのではないか。
 余はこのまま戦争を継続していけば、日本の滅亡は明らかなことであると常々考えていた。今日の戦局のさんさんたる有様は、余には理の当然で、むしろ着々として戦略の正しい推移を物語っているに過ぎないと考えられるのであった。」

「いやしくも名将は特攻隊の力は借りないであろう。特攻隊はまったく生還を期さない一種の自殺戦術である。こうした戦術でなければ、戦勢が挽回できなくなったというのは明らかに負けである。
 だか負けるということは滅亡することとは違うのである。その民族が活動力さえあれば、立派な独立国として世界に貢献することもできるであるが、玉砕してはもう国家そのものがなくなり、再分割されてしまうのだから、実もふたもない。」

「戦争というのはあくまで一時期の現象であって、長期の現象ではないことを知らねばならない。
 この点に関して日本の戦争指導者は、初期においては電撃戦を唱え3ヶ月で大東亜全域を席巻すると称していながら、太平洋の広さを忘れ、長期化し、ついには本土決戦を怒号し、1億総玉砕にまでひきずって行こうとしたのである。
 それはもはや戦争とは言えない。原始人の闘争にしか過ぎない。」

 見事に終戦氏し、わずか4ヶ月の鈴木内閣でしたが、日本を救いました。吉田茂氏にこうアドバイスしたそうです。

「戦争は勝ちっぷりも良くなくてはいけないが、負けっぷりも良くないといけません。鯉はまな板の上に載せられたら、包丁をあてたってもびくともしない。あの調子で吉田さん、負けっぷりを良くやってください」と言われたとか。

 阿川氏はこの言葉が、総理になってからの吉田茂氏の「プリンシブル」だったと聞いていますと言っています。なるほどと思いました。

 そう考えますと1年足らずで政権を投げ出した安部晋三氏も、福田康夫氏も大人の見識はありませんね。安部氏は鈴木氏や吉田氏がこしらえた「戦後日本」を全否定すると意気込んだもののひ弱なファストでしたので自分が壊れました。

 福田氏はただ選挙に勝つだけに政権を投げ出したとしか思えません。未曾有の金融危機と制度疲労に対し憤然と立ち向かうのが総理総裁でしょうに。2代続けて総理総裁になる覚悟のない人物を圧倒的な党内の支持で誕生させた自民党は本当に大丈夫なのでしょうか?

 そして今回の麻生太郎内閣。さっそく「大人の見識」がまったく無い軽薄な人物が閣僚におり5日で辞任しました。本当にこの内閣で緊急経済対策できるのでしょうか?不安です。

 与野党どちらが総理に選挙を通じてなるにせよ、「大人の見識」をもった人物がなるべきであるとつくづく思いました。良い読書をしました。

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