「資本主義はなぜ自壊したのか」(中谷巌・著)を読んで
「衝撃の懺悔の書に話題沸騰」と帯にありました。中谷巌氏(現多摩大学教授)の著作を新居浜の書店で1785円で購入しました。貧乏人には大きな出費でしたが一読の価値のある書籍でした。
中谷巌氏と言えば10年ほど前、ある取引商社の交流会で大阪へ行った折に講演を聴いたことがありました。当時は「規制緩和」「市場原理の導入」「金融自由化」を唱える市場原理主義者であり、「アメリカのような金融立国に日本はならないと国際社会で大きく立ち遅れる」と強い口調で主張する論客でありました。
小泉純一郎内閣では竹中平蔵氏と並ぶ「構造改革推進」のブレーンであり、旗振り役でありました。しかし最近中谷巌氏は、当時の自らの過ちを認め、左翼用語で言う「自己批判」をされました。実に潔い。未だに「自らの過ちを認めない悪徳エコノミストの竹中平蔵氏」よりも100倍も誠意を感じました。
中谷巌氏は一橋大学卒業後日産自動車に入社。アメリカのハーバード大学へ1969年に留学されました。まばゆいアメリカの豊かさ。中流階級のおおらかさを存分に味わい、アメリカ社会の素晴らしさに心酔されたそうです。
その社会は「アメリカン・ドリーム」の個人の偶然の奇跡的成功によってもたらされてのではない。
じつは「ニュー・ディール政策」の公共部門への投資と福祉政策の充実こそ、豊かな中産階級を生み出し、繁栄を謳歌していたのであると。ただし当然行き過ぎもあり、公共投資と福祉への投資が過ぎて、巨額の財政赤字が出現し、どうにもならなくなった。
その時期にレーガン・サッチャー政権の「小さな政府」「規制緩和」「金融自由化」「福祉・教育投資の縮小」が行われ、一時的に成功したのであると。
しかしその代償は中産階級の解体と格差社会の出現。一体感の喪失と社会の荒廃でした。代償は大きく地球規模の格差社会の推進と環境破壊を推進させました。
「グローバル化によって利益を得たグローバル資本は政治に対しても発言を持つようになり、小さな政府、規制緩和、企業減税を声高に要求すようになった。」
「小さな政府を追及した結果、自己責任が合言葉になり、社会福祉が後退せざるを得なかった。救急医療を受けられない救急難民が生まれ、医療サービスの質が落ち、日本では後期高齢者医療制度のような高齢者にとってありがたくない制度が平気で導入されたのである。」
「また環境破壊や食物汚染の広がりも広い意味でのグローバル資本主義のコストと言って良いだろう。また所得格差の拡大や人と人との連帯、絆が希薄になり、人心が荒んだ結果、凶悪犯罪が目立つようになった。」
「グローバル資本は利益の追求が大事。環境コストは払いたくないと考える。地球環境破壊は、適切な環境コストが経済主体によって負担されてないためにおこるのである」(P95)
中谷巌氏は後半、訪れたキューバとブータンの社会の説明をします。
「キューバはファミリー・ドクター制度をこしらえ社会の絆を高めた。病気になっても高齢になっても社会から見捨てられない社会が、人々に安心を与える。」
「ブータンは国民総生産よりも、国民総幸福を追求する国。」であると。
中谷氏はキューバやブータンの社会のおおらかさ。所得は低くとも人々の顔が明るく生き生きとしている社会を観察し「小泉内閣の改革なくして成長なし」にはうなづけなくなった」と言っています。「マーケット・メカニズムに任せておけば世の中は良くなる」ということはないことを確信されました。
「資本主義は個人を孤立化し、社会を分断する悪魔の碾き臼である。」(P140)
「労働・土地・貨幣は「禁断の果実」それを商品化したところが間違いの始まりであるとも言います。なるほどと思いました。
「欧米社会は階級差があり、貴族と平民階級は歴然と存在する。労働は苦痛であるという社会観がある。日本は違う。天皇でも田植えと稲刈りは行う。日本の自然観は「共生の思想」である。」
「アメリカ主導の世界モデルが崩壊しつつある今日、日本的価値観の重要さはますます大きくなっていると私は確信している」(P291)
日本の社会の歴史。労使一体の経営。長期的視点での品質改良。まさに伝統的農村社会の延長での企業経営が、社会とも自然とも共生し、発展していくのではないでしょうか。
「売りよし、買いよし、世間よし」という近江商人の教訓こそ今こそ世界で活用されるべきであると思いました。
と今回はレポートしました。いい言葉がたくさんあります。良い著作でした。もっと引用したいのですが今回はこのあたりまでとします。
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