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2009.11.29

「花神」を読んで

 「花神全4巻を図書館で借りてきて休日に一気に読みました。司馬遼太郎さんが1972年に新潮社から出版された小説です。

 主役は村田蔵六(大村益次郎)。日本史では戊辰戦争の時に、総司令官として登場、日本陸軍の兵制をこしらえた人ですが、明治2年に京都で暗殺されました。

 1977年のNHK大河ドラマで放映されたとのことですが、関西ー東京勤務時代でせわしく見ないで終わったようで全然記憶にありません。

 今日から「坂の上の雲」という同じ司馬遼太郎さんの歴史ドラマが鳴り物入りで始まります。そういう背景もあり、司馬さんの書籍を「この国のかたち」を読んでからやたら読みたくなり図書館で借りてきて読みました。
Kashinhonm

 幕末・維新の歴史の大転換期にあって、主人公村田蔵六は異様なキャラクター。血気盛んな志士を軽蔑し、ひたすら蘭学に打ち込み、大秀才といわれていました。しかし百姓身分のせいか、出身の長州でも軽く扱われ、後に宇和島藩や幕府の役人にもなります。しかし「攘夷」の気持ちからか、出身地の長州に請われ、安い給与と待遇ながらそちらへ移籍します。

 村田蔵六の凄いのは、一度も外国へ行かないのに、西洋医学や科学を会得。宇和島藩では書物を頼りに蒸気船をこしらえます。長州では第二次長州征伐の大ピンチに司令官として抜擢され、大勝利を演出します。その後戊辰戦争も想定より短く1年足らずで終わりましたが、それは村田蔵六の功績がとても大きいと思いました。

「攘夷という一大発熱によって日本の体質を変える。ひとびとの需要のために村田蔵六という男は存在している」(1巻P138)

 司馬遼太郎氏はご自身の惨めな戦争体験を踏まえ日本の近代史を総括してしまっています。
「明治以前までの日本の歴史は虚構をほとんど受け入れることなく進行し、維新後80年間は絶対的天皇制という非日本的な虚構を大がかりにつくりあげたが、ついにキリスト教、インド教のように身に付かず、第二次世界大戦の敗北によって、もとの現実主義的な日本人に戻った。」(第4巻 P15)

 司馬氏によれば村田蔵六は徹底した合理主義者であり、思想や感情が支配されることを嫌う冷徹な現実主義者であったようです。
「ただほんのわずか普通人というか、とくに他の日本人と違っているところは、合理主義の信徒だったということである。この違いはわずかに見えるが、考えようによっては、日本的風土の中では存在しがたいほどに強烈なもので、その強烈さのために蔵六はその風土を代表する政治的狂人のために殺された。(第4巻 あとがき)

 幕末維新の立役者であり、今でも国民的な人気のある西郷隆盛と生涯うまが合わず。その危険性を村田蔵六は予見し、「九州から足利尊氏がやってくる」と彼の死後の8年後の西南戦争を予見、それに備えるために新型の砲台をたくさんつくれと言っていました。それが役立ち、政府軍は薩摩軍を鎮圧できました。

 どんな境遇に置かれても、冷遇されても不平を言わず、学問や文献調査に明け暮れていた村田蔵六。地味なキャラクターですがものすごく魅力的で惹かれました。

 あやかりたいと思いました。

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