「そして日本が勝つ」を読んで
ブックオフという古本屋で「そして日本が勝つ 精神から見た世界史」(日下公人・著・PHPソフトウェア・グループ刊・2004年)を読みました。発売当時(2004年)に1575円の新刊だったこの本。2010年の3月には105円で販売されていたので、購入しました。1度800円のシールが貼られていましたが、それでも売れないので105円にしたのでしょう。105円コーナーにありました。
日下公人氏といえば保守派の論客。小泉構造改革の支持者であり、安倍晋三氏のブレーンではなかったかと思われます。発売当時は当時の社会風潮に乗っかって「最先端」だったと思われる書籍「だった」んでしょう。6年経過すると「陳腐化」するのか105円という値段の付け方が面白い。
もっともブック・オフという全国チェーンの古本屋は、コミック本のほうが高値。この種の「お固い本」は「市場性がない」と経営者が判断するのでしょう激安。ある意味値段どうりの価値しかないのかもしれません。
「ロナルド・モースUCLA大学教授、というよりしばしば議論を楽しんできた長年の友人が先日、こんな話をしてくれた。
日本はハイテクの国だというが、それは違う。日本は芸術の国である。例えばトヨタのレクサスは凄い。あれはクルマではなく芸術品である。と大いに褒めた。」(「日本自動車はクルマではなく芸術品」P18)
2004年頃はそうであったんでしょう。ひょっとしてトヨタの経営者は日下公人氏のこの本を読み、アドバイスを受けて、品質を「米国並み」にして結果いちじてきに大儲けしました。しかし致命的なクレームと、思い上がりから来る対応の不味さから、この当時絶賛されていた地位から凋落しようとしています。皮肉なものです。
わたしも西洋社会の歴史と日本史を比較対照して(大雑把ですが)、日本のほうがシステム的に進んでいるのではないかと思うことがありました。
例えば「政教分離」の話。日本では織田信長が1571年に比叡山の焼き討ちをしました。439年前のことです。信長は政教一致の一向一揆とも徹底的に対立して撲滅しようとして、ほぼ成功したりします。後継者の秀吉や徳川家もキリスト教を禁止し、国の防衛のため鎖国までします。
仏教は檀家制度を江戸時代に整備され顧客を確保でき経済的基盤はできましたが、政治に関与しなくなりました。葬式仏教になりました。檀家制度もキリスト教信者の密告制度の1面もあったんでしょう。
憲法で信教の自由が保証された時代になっても日本はキリスト教信徒はは人口の1%。30%を超える隣国の韓国とは大違い。日下氏もそこに「日本精神の強さとしなやかさ」を見ていると思います。
「日本には1400年前からの芸術の伝統がある。その特徴は「宗教のしばり」がないことで、絵で言えば自由に自分の印象で何を書いてもいい。政治で言えば成員の合意があればなにをしてもよい。思想で言えば何をかんがえてもいい。
そのような自由が1400年前からあるというのはウルトラ先進国で、日本人はそれを自覚していないが、しかしその反映は自ずから産業にも文化にも現れる。」(「日本単独で何でもできる」P261)
105円の本なりの価値があったと言えるでしょう。それほど「きばる思想」でもないし、「当たり前」のことを知識人が書いているだけの書籍であります。ある意味日本の「有識者」といわれる人たちの「底の浅さ」「軽薄さ」を感じた書物でありました。
| 固定リンク
コメント