「老人力」を読んで
「老人力」(赤瀬川原平・著・筑摩書房刊・1998年)を読みました。今では普通に流布されている「老人力)という言葉。その発案した赤瀬川氏は当時60歳の還暦。全然若いのです。
NHKの番組を先に見ていました。だから赤瀬川氏の言う「老人力」の意味を理解することができました。10年ほど前にも図書館で見かけ,借りて読んでいましたが、そのあたりはわからず読んだので,意味不明瞭で読んだことでしょう。
参考ブログ記事「人生を楽しむ達人ー赤瀬川原平さん」
「老人力という言葉そのものは,路上観察学会の中から発生した。その発生に当たってはその言葉を生み出す場の熟成があったわけで,路上の場での思考や、おこないが,次第に老人力という概念を使わざるを得ないところまで熟しきっていたのだ。」(「老人力の胎動の時期を探る」P94)
「ぼくはむかし趣味を軽蔑していた。
趣味というのは自分だけの楽しみで、世の中には何もコミットしないじゃないか、と思ってばかにしていた。
趣味よりも思想のほうが強いと思っていた。
思想とか革命とかい,前衛芸術とか,そういうものの方が,趣味なんて女々しいものだと思っていたのだ。
中略
何と言ってもわかいものの思想の信仰が挫折し,挫折ということに関しては思想に限らず他にいくつも散見するわけで,挫折は何も特殊なことではなく世の常なんだ、ということを知るようになる。
挫折の高用途は何かというと、力の限界がわかってくること。若いときは何でもできるとおもっているけど。挫折もあって自分の力の限界が見えてくる。世の中での可能性の限界も見えてきてしまう。」(「ソ連崩壊と趣味の関係」P108)
*このあたりの記述は「卓見」であると思います。新旧左翼が思想的な価値がなくなり、消滅したのは余裕のない面白みのない思想であったからであると思います。
「いや差別するわけではないが,アメリカは老人力理解不能の国だと思う。若さとパワーの国だけを頼りに全員ライフルを片手にひたすら前のめりの一つ覚えでやってきた国だから日本人にいきなり
「老人力」
といわれても、え?といって。きょとんとした顔しか出来ず、とりあえずライフルを空に向けて一発ぶっぱなすだろう。」(「老人力は物体に作用する」(P164)
*何かとアメリカには卑屈になる日本人。「老人力」からアメリカを見れば確かによくわかります。若さがなくなったという理由で自殺するひともアメリカは多いと聞いています。
「たとえばブータンって、GNPはものすごく低い、つまりは計算上は貧しい国だけど、実際に行くと、なんだかすごく生き生きとしてるのね。
泥にまみれても、目がパキっとしているというか、眼力が違う。
でも目がバキッとなんて,計算には出てこないんですね。それにGNPが低いと行っても,自給自足の場合は数字にはでないわけで、数字だけ見てると。とんでもない間違いをすることもあるんだなって,思ったんです。」(「宵越しの情報は持たない」(P214]
*これなんかも12年前に発言されています。高知でも閉じられた会合での講演会でしたが、ブータンの首相が来て「国民総幸福」について発言されていました。
72歳であると言いますが、なかなか油断出来ない人であると思います。
ところでわたしも最近特に「老人力」が出てきました。車から下りるときに鍵を差し放しで降りたりします。(一晩忘れていたりもしました。)最近は「よくある」そうなので、老人力がアップしてきたことを感じてしまいました。
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