「ヒトラーとケインズ」を読んで
最近は近くの図書館で借りて読む本ばかりですが、久しぶりに高知市京町角にある片桐書店で「ヒトラーとケインズ ーいかに大恐慌を克服するか」(武田知弘・著・祥伝社新書・2010年6月刊・798円)を購入しました。
タイトルの「ヒトラーとケインズ」に惹かれました。帯にある言葉「大英帝国はナチスを見習えと、ケインズは言った。 ーなぜドイツだけが3年間で世界大恐慌から脱出できたのか? 「国による有効需要の創造」の劇的効果を顕彰する!」とありました。
歴史的事実から観察すると。第一次大戦で敗北したドイツは、戦勝国に莫大な賠償金の支払いを要求され、おまけに世界大恐慌の影響で失業率は34%、600万人が完全失業していました。
当時の経済学や政治の潮流は「自由放任主義経済」か、共産主義経済という両極端なものでした。両方共うまくたちいかないときに、処方箋を提供したのが英国の経済学者ケインズであり、その処方箋を知ってか知らずかケインジアンとして着実に実行したのがナチスドイツでした。
ヒトラーは失業の解消を最優先課題としました。「不況期には政府が財政出動して有効需要を創出し、まず失業を減らす」.ヒトラーはアウトバーン(高速道路)の建設の他、住宅建設、都市再開発などの積極的な公共事業を行ない、わずか3年でドイツ経済を復興させました。
ケインズの理論を実践したアメリカのルーズベルトのニューデール政策より前に、ドイツのヒトラーが劇的に成功したのです。
武田知弘氏は丹念に、ヒトラーの政策を点検し、ケインズとの類似性をあげています。ドイツは敗戦で海外植民地をすべて失いました。多額の賠償金もありました。外貨も底を付いていた。
1933年に政権を獲得したナチスは、ドイツだけで自立できる経済発展を望みました。幸い工場施設は残っている。また大戦中に英米に海上封鎖され困窮し、敗戦につながったこともあったので、食料やエネルギー資源も自前の調達を志向しました。
食料品は東欧諸国と交易し手に入れました。お互い外貨がないので、ドイツの工業製品と物々交換的な手法で。おなじやりかたで、南米諸国ともドイツは交易、お互いに利益を上げました・
国内では積極的な公共投資で失業を解消する。海外とはお互い利益が出るやりかたで、独自の経済圏をこしらえうまくやっていました。
ナチスは「自由放任主義経済」と「共産主義経済」双方を克服し、成功した経済システムになっていたようでした。なによりケインズが絶賛していたのですから。
ある意味「連合赤軍と新自由主義の克服」をナチスドイツは初期段階ではしていたのではないかと思います。当時の「1人勝ち」していたアメリカの力に依存せず独自に、不況脱出をやり遂げたのですから。
ただし帝国主義的野心と、報復主義は指導者のヒトラーにはあり、それがまた改革の原動力であった限界があり、欧州各地に軍事侵攻して結果は滅びました。
「目からウロコ」の本でした.一読をお薦めします。
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