「アメリカのジャーナリズム」を読んで
「アメリカのジャーナリズム」(藤田博司・著・岩波新書・1991年刊)を読みました。ブックオフで350年で購入したものでした。
表紙のカバーにこう記述してありました。
「湾岸戦争の際の徹底した報道管制、広告コンサルタントの手によって演出された大統領選挙、テレビにひきずられる大衆紙・・・。
かつて国防総省ベトナム秘密文書事件やウォーターゲート事件で見せたアメリカのジャーナリズムの精神はどこへ行ったのだろうか。
ニューヨークとワシントンに12年間滞在したジャーナリストによる興味深い報告」
すでに1991年当時からアメリカのマスコミには問題があったと筆者は指摘しています。共同通信のアメリカ支局員としてワシントンDCや、ニューヨークの事情を肌で滞在して知っています。なるほどと思いました。
メディア。とくにTVメディアがゆがみ始めたのは、レーガン政権からであるそうです。
「ホワイトハウスの南庭。週末をワシントン郊外キャンプデービットの山荘で過ごすロナルド・レーガン大統領が、夫人のナンシーを伴って専用のヘリコプターに向う。
「ミスター・プレジデント」。少し離れたところにたむろしている記者団のなかから、だれかが大声で叫ぶ。
「・・・・・ですかあ」と、なにやら質問が飛ぶが、レーガンには聞こえぬらしく、ちょっと手を耳にかざして首をかしげ、それからにこやかに手を振りながらヘリコプターの期中に消えるー。
テレビで何度となく放映されたこんな光景を覚えている読書も少なくあるまい。
しかしこれが、メディアを操るための計算された演技であることに気づいた人は、さほど多くはなかったはずだ。
ホワイトハウスとしては、高齢だが健康な大統領がしっかり政治の舵取りをしているイメージを国民に伝えなければならない。しかしうっかり記者団を大統領に近づけては、レーガンがどんな失言をしでかすか、気が気ではない。
そこで編み出されたのが、記者団と大統領の間に質問するには無理な距離をおき、にこやかな大統領の映像だけが確実にテレビに映る舞台仕掛けを作った結果が、あの見慣れた光景だったのだ。」(P156 レーガン政権とメディア ニュースに口出しは無用」)
なるほどブッシュ父子大統領も、レーガンの手法を踏襲していましたね。日本でも談合記者クラブの若手の駆け出しの記者が「総理、今日の気分は!」とか無意味な叫び声をあげているのはその影響なんでしょう。
しかしアメリカ・ジャーナリズムと言えば、映画にもなりました「大統領の陰謀」のワシントン・ポストの若手の2人の記者によるウォターゲート・事件の真相暴露報道です。当時のニクソン大統領を辞任に追い込みましたから。
ロバート・レットフォードとダスティング・ホフマンが好演していた映画でした。ローカルなワシントンの地方紙の意地というか、アメリカ・ジャーナリズムの根性を見せてもらいました。
その「教訓」とベトナム戦争の報道が国民を「覚醒」させた反省から、アメリカ大統領府はマスコミ各社幹部と結託して、情報管理を推し進めました。最もそれが成功したのが1991年の湾岸戦争であったそうです。
その巧妙な情報操作の手口を筆者は詳細に紹介しています。
「テレビの全国ニュースに取り上げさせることを狙うハンドラーたちは、1こま1分ないし、1分30秒と言う時間枠にうまく収まるように見せ場を用意し、演説の内容もそれに合わせて調整する。
逆に見せ場から注意をそらす情報は排除され、メディアの目の届かぬそころに押しやられる。」
「テレビ記者にとって、ハンドラーのこしらえたお仕着せの映像と情報を使えば、手際よく安直にニュースをまとめることができる。
逆に、厳しい情報管理のもとで独自の取材を試みようとすれば、情報不足、映像不足に直面しなければならない。勢い安直な道を選ぶものが出ても不思議ではない。お仕着せの映像を使いながら、背後に情報操作の意思が働いていることを指摘して、抵抗を試みたものも少なくはなかった。
しかし視覚に訴える映像の圧倒的な衝撃力に比べ、それを打ち消すような記者の説明は、それほど大きな効果は持たなかった。」(P181 イメージの政治 振り回されたメディア」)
2001年以降の小泉内閣のマスコミを利用した情報操作のモデルは、まさにアメリカにあったんだとわかりました。
この書籍が出版されてから10年後の2001年に「9・11」がありました。「テロとの戦い」でよりマスコミが政府に統制され、真実を伝えなくなりました。
そのあたりはアメリカの市民はさすがです。ブログやツイッターやユーチューブでどんどん情報発信をしています。社会性のある情報を発信しています。
2年前は人種差別発言をした有力上院議員の発言が、ユーチューブで数万回閲覧され、遂には地元TVにも取り上げられて、大きな騒動になり落選しましたから。
イラクからも兵士による真実の情報提供もブログなどにあったようです。
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