« 良いお天気ですね! | トップページ | 第3回龍馬杯ヨットレースINやす »

2011.05.15

「日米開戦の真実」を読んで

Nitibeikaisenshinzituhon
 「日米開戦の真実 大川周明著 米英東亜侵略史を読み解く」(佐藤優・著・小学館・2006年)を読みました。同じ日に大川周明署の「米英亜細亜侵略史」(1942年刊)を借りたので、その「参考書」として読みました。

 正確な現代語訳を著者はしてくれていましたので、読みやすかったです。大川周明という巨大な思想家、「埋もれた思想家」を発掘するのには適切な参考書ではありました。

 「参考書」という枠を超えて、佐藤優氏の解説と意見も読むに値しました。

 歴史や政治を解析するためには、「地政学」をよく理解しないといけないという文言がたびたび出てきます。

 現在に通じるアメリカの本質について、大川周明は「アメリカの二重外交」として見抜いていました。まとめてみます。

アメリカ 

 第1次世界大戦が変質の契機。「戦争はアメリカの自尊心が許さない」と孤立主義を標榜していましたが、連合国側の勝利が確定するや、「自らの利権拡大」のために変身。「自由」「独立」の道義国家アメリカが、帝国主義国家に変換していきました。

日本

 明治維新時の「道義国家」が。1920年代の普通選挙制度、腐敗政党と、財閥の利権。堕落国家に日本はなってしまった。大川周明は「国家改造」を企てます。

もともとアメリカは有名な「モンロー主義」があり、自国の裏庭である南北アメリカ大陸諸国への干渉や働きかけを排除するかわりに、他国のことにも不干渉が原則でした。

 それが第1次大戦が終結したことから、覇者の英国に成り代わろうという行動が目立つようになりました。

「アメリカは本音(帝国主義)と建前(道義)を使い分ける二重構造(ダブルスタンダード)は、道義国家である日本には受け入れられないと大川は考えた。」(P135)

 民族自決を標榜したウィルソン大統領の提唱で国際連盟は発足しましたが、当のアメリカは加盟しませんでした。

 国際連盟は、日本が提唱したアジアやアフリカでの人種差別の禁止要項はにべなく拒絶しました。(白人欧米クラブだから)

アメリカは国際連盟には加盟せず、でもその機能は利用し、満州国の調査を行い、満州国独立を国際連盟は承認しませんでした。日本はその結果を不服として1933年に国際連盟を脱退します。

 大川周明は「アメリカという病理現象を治癒することが日本の使命である」ことを言っています。

 佐藤優氏はこう記述しています。

「筆者は見るところ、大川は軍事行動で日本がアメリカやイギリスに勝利することは不可能と考えていた。

 むしろ戦争を契機に日本国家、日本人が復古的改革の精神で団結し。アジアの同胞から信頼され、新たな世界をつくる世界システムを作る端緒を掴めば、そのときに軍事力以外の力でアメリカ、イギリスとの折り合いをつつけることができる可能性があるという認識をもっていたのではないかと思われる。」(P139)

 また佐藤氏は大川の能力を以下の点からも高く評価しています。

「国際問題を論ずる識者は、理念先行の非現実的平和主義者と、国家の軍事力や経済力だけに目を奪われ、道義性を冷笑する力の論理の信仰者の陣営に分かれがちであるが、大川はそのどちらにも属さない。

 道義性とリアリズムを大川なりの方法で統合しようとしているのである。」(P140)

 しかし大川周明にも限界がありました。佐藤氏の解説は的確です。

「大川の限界は米英東亜侵略史の後半部分で明らかになる。近代化において欧米列強の植民地にならなかった日本は、中国を含むアジアの諸民族国を植民地のくびから解放しようと真摯に考え、行動した。

 しかし、後発帝国主義国である日本は基礎体力をつけなくてはいけない。そのために、期間を限定して、アジア諸国を日本の植民地にすることは止むを得ないと考えた。ここに日本人の民族的自己欺瞞は忍び込む隙ができてしまった。

 あなたを痛みから解放するために、あなたを一時的に痛みを加えます というのは外科手術が前提としている論理であるが、これを国際政治に適用した場合、痛みを追加的に加えられた民族にその理由は理解されないのである。」

「イギリスのような老獪なな帝国主義国は、植民地住民の人権などははじめから考えておらず、また植民地は帝国を維持するために不可欠と考えていた。

 そのために植民地住民に対する圧迫をほどほどにしていた。相手にどの程度の痛みがあれば、どの程度の 反発があるかということを冷徹に計算していたのである。

 植民地支配の打破をを真剣に考えていたからこし、日本はアジア諸国に痛みを与えていることに気がつかなかった。ここに大川のみならず。高山岩男や田邉元といった京都学派の優れた思想家が落ちていった罠があったのだ。」(P141)

 また歴史において「もっとも競争に強い国は自由貿易を相手国に強要する」「19世紀のイギリスが提唱した自由主義。21世紀のアメリカが提唱している新自由主義(小さな政府)なども同じである。

 大川周明は多元主義者でもありました。

「社会主義革命はヨーロッパの精神的伝統から生まれた改革であるため、精神的伝統を異にする日本を含むアジアでは改革は自国の伝統を回復し、自国の善によって、自国の悪を克服することによってのも可能だとという信念をもつ大川は、社会主義をアジアの適用することに関しては批判的なのである。」(P237)
Ookawahonsatou03_r

 また佐藤優氏は、左翼イデオロギー(大ブント構想など)哲学者の広松渉氏の主張には注目していました。

「東亜共栄圏の思想はかつては右翼の専売特許であった。日本の帝国主義はそのままにして、欧米との対立のみが強調され、今では歴史の舞台が大きく回転している。

 日中を軸とした東亜の新秩序を!それを前提とした世界の新秩序を!これが今では日本資本主義そのものの抜本的統御が必要である。が、しかし官僚主義的な圧制と腐敗をと硬直化を防げねばならない。

 だがポスト資本主義の21世紀の世界は、人民主権のもとに、この呪縛の輪から脱出しなければならない。}(P250)

 広松渉氏が「大東亜共栄圏構想」を持っていたとは。驚きました。

 共同体論は核心をついていると思います。

「EUは中世から培われたユダヤ・キリスト教の1神教。ギリシャ古典哲学。ローマ法の三原理が一体となった「コルプス・クリスチアヌム」(キリスト教世界)という共通の土台があってはじめて出来たものだ。

 ローマ法を欠くロシアはEUの共通意識をもてないのである。

「コルプス・クリスチアヌム」に争闘する共通意識は東アジアには見当たらない。強いて言えば、新旧漢字文化圏というのであろうが、それは中華帝国に日本が吸収されることを意味するので、日本の国益に「合致しないと筆者は考える。

 かつて日本は、大東亜共栄圏という形で人為的に、共通意識の理念型を東アジアで構築することを試みたが、失敗した。この教訓からも学ばなくてはならない。

 筆者の理解では、地域共同体はには「共通意識の理念型」の要因と。「力の均衡の論理」の双方の要因が内在しているが、「共同意識の理念型」に軸足を置かない共同体構想は不安定だ。」(P256)

 大川周明は「やまとごごろによって、支那精神とインド精神を統合し亜t東洋魂である」と言ってはいますが・・・・。

 佐藤優氏は日本がおかれている厳しい現実を国民各位が凝視することから始まらないといけないと述べています。

「太平洋を挟んでアメリカという帝国を隣国にしてしまった運命を日本人は受け入れなければならない。その現実、あるいは制約の中で外交を展開することが日本の国益に適うと筆者は考える。」

 困難な道であるがこれしかないようにも思えます。

「対中牽制を睨んで日本の外交戦略を「力の均衡の論理」に基づいて組み立てなおすことが急務だ。

 具体的には、日米同盟の基礎の上で日本がインド、ロシア、モンゴル、台湾、ASEANと提携し、中国を国際社会の「ゲームのルール」に従わせ、日本の国益の増進を図るための連立方程式を組むことだ。

 そこで切磋琢磨しているうちに、自ずから共通認識の理念型が生成してくるかもしれない。しかし、それにはまだまだ時間がかかる。われわれには必要なのは、アメリカという超巨大大帝国と中国という急速に国力を強化しつつある国家の間にある地政学的運命を冷静に受け止め、日本国家と日本人が生き残っていく方策を真剣に模索することだ。」(P258)

 大川周明はユニークな思想家でありました。

「大川の人間観が性善説、性悪説のいずれにも立脚せずに、無記の立場から突き放して人間を観察していることに基づく。」

「大川は、民主主義であれ、共産主義であれ、思想の背景にはそれを生み出した伝統と文化があるので、それを無視して日本や中国に輸入することは不可能と考えていた。

 北一輝を含む多くの日本の国家主義者が孫文の国民革命に感情を揺さぶられたのに対し、大川周明は距離を置いた姿勢を示す。大川は孫文の三民主義の基礎となる民主主義(デモクラッシー)自体が欧米的原理であって、アジア解放の手段にならないと考えていた。

 ちなみに共産主義も大川にとってはロシア的原理なので共産主義がアジアを解放することはできないと考えている。」(P274)

 佐藤優氏の「大川周明」を参考書とした結論はこう書かれていました。

「新自由主義やグローバリぜーションには歩止まりがある。
日本の国家体制(国体)を強化することがわれわれに残された現実的シナリオだと思う。

 国体の強化は、大川周明が言うように、日本の伝統に立ち帰り、「自国の善をもって自国の悪を討つこと」によって可能になる。そして自信をもって自国の国益を毅然と主張できる国に今なることだ。

 自らの主張に自信を持っている国家や民族は、他国や他民族の価値を認め、寛容になる。日本はアメリカの普遍主義(新自由主義や一極主義外交)に同化するのでもなければ、「東アジア」の共通意識を人為的に作るという不毛なゲームに熱中する必要もない。

 中略

 アメリカ、中国それぞれの内在論理は理解するが、其の両国とも同化せずに、両国を巧みに取引する中で、日本国家と日本民族の域のこちを図るのである。」

 読んでいまして、「国体」の意味は正直わかりません。

 大川周明ー佐藤優という強烈な思想家と外交官の視点は新鮮でした。私の個人テーマである「連合赤軍と新自由主義の総括」についてかなりの部分で回答ができるように思うようになりました。


 

|

« 良いお天気ですね! | トップページ | 第3回龍馬杯ヨットレースINやす »

コメント

しばやんさんの歴史を考察されたブログのなかで、推薦図書に敗戦後GHQによる言論統制と焚書があったと言われていました。

 そのなかで江藤淳の著作もあり、それからたどりついて大川周明を「発見」しました。

 「鬼畜米英」を騒ぎ立てる扇動者かと思いきやそうではなく、語学も堪能であり、教養もある人物でした。

 大川は、「ペリー提督が日本の交渉役に来ていただいたことは日本にとって良かった。当時のアメリカは節度があり、今ほど傲慢で2枚舌ではなかった。」と言っていました。

 「米英東亜侵略史」は優れた「帝国主義論」として読まれるべきであると思います。

 しばやんさん同様に私も「食わず嫌い」で、大川周明を避けて来たと思います。

 冷静な文章は、米国とソ連に「脅威」と思われたのでしょう。だから焚書され、誹謗中傷されたのでしょう。

 佐藤優氏が解説しているのも、とても興味がありました。

投稿: けんちゃん | 2011.05.16 06:57

私が学校で学んだ歴史は、戦時中に軍及び政府は国民にヒステリックなプロパガンダを行い、無謀な戦争に引きずり込んでいったという思い込みがあって、その思想的支柱が大川周明であるようなイメージがあり、これまでその著書を読んでみたいとは思ったことがありませんでした。

そのような思い込みがあるのは、アメリカによる擦り込まれた可能性をしばしば感じていますが、アメリカが抹消しようとした思想家の考え方を知ることが戦後教育による「洗脳」を解くことになるのかもしれませんね。

ブログの記事にするかどうかはともかく、私も読んでみたくなりました。

投稿: しばやん | 2011.05.15 22:50

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「日米開戦の真実」を読んで:

« 良いお天気ですね! | トップページ | 第3回龍馬杯ヨットレースINやす »