「原発・正力・CIA」を読んで
「原発・正力・CIA」(有馬哲夫・著・新潮新書・2008年刊)を読みました。新聞の書評でこの本について書かれたものを読んでいました。題名も気になっていましたので、高知市の片桐書店にて購入(756円)しました。
本の帯にこう書かれています。「原潜ノーチラス号、第5福竜丸事件、日本テレビ、保守大合同、讀賣新聞,吉田茂、アイゼンハワー、原子力発電所、ディズニー、CIA・・・・・。連鎖の中心には正力松太郎がいた、」(帯の説明文)
現在日本には原子力発電所が54基もあります。電力の原発の依存度は30%を超えていました。しかし3月11日の東日本大震災で状況は一変しました。福島第一原子力発電所の大事故は、今まで無関心であった日本の原子力発電所問題を考えるきっかけになりました。
日本は1945年に何の通告もなく原子爆弾を広島と長崎に投下され、30万近くの市民が亡くなりました。後遺症で苦しみ亡くなった被爆した市民も多数いました。その9年後のp1954年に米国の水爆実験で操業中の第5福竜丸が被爆し、当時3000万人の国民が核兵器廃絶の書名をしたとのことでした。
強固な原水爆禁止運動が展開されるなかにあって「平和利用」という名目で日本原子力発電がなぜ導入されたのか。それに讀賣新聞社主の正力松太郎氏と米国諜報機関であるCIAがどのように絡んでいたのか?表題にも興味がありました。
転機が1954年であったそうです。この年の1月21日に原子力潜水艦ノーチラス号の進水式が行なわれました。これが日本の原子力発電導入の「連鎖のはじまり」であると筆者は述べていました。少し長い引用ですが、大事なところなので記述します。
「このニュースの1ヶ月ほど後、原子力の負の部分を示す決定的な事件が起こった。3月1日、アメリカが南太平洋のビキニ環礁で水爆実験を行なったところ、近くでマグロ漁をしていた第5福竜丸の乗組員がこの実験の死の灰を被ってしまった。第5福竜丸事件である。これによって広島、長崎への原爆投下で最初の被爆国になった日本は、水爆でも最初の被爆国になってしまった。
やがて日本全国に原水爆反対平和運動が巻き起こり、原水爆禁止の署名をした人々の数は3000万人を超えた。これは日本で戦後最大の反米運動に発展し、駐日アメリカ大使館、極東軍司令部(CINCFE),合衆国情報局(USIA),CIAを震撼させた。
これら4者は、なんとかしてこの反米運動を沈静化させようと必死になった。彼らは終戦後、日本のマスコミをコントロールし対日外交に有利な状況を作り出すために「心理戦」を担当していた当事者だったからだ。
反米世論の高まりも深刻な問題だが、実はそれだけではなかった。この頃国防総省は日本への核配備を急いでいた。ソ連と中国を核で威嚇し、これ以上共産主義勢力が東アジアで拡大することを阻止するためだ。
そのためには彼らが熱い視線を向けたのが讀賣新聞と日本テレビ放送網という巨大複合メディアのトップである正力松太郎だった。
ノーチラス号の進水から始まった連鎖は、第5福竜丸事件を経て、日本への原子力導入、ディズニーの科学映画「わが友原子力(原題 Our Friend the Atom)」の放映、そして東京ディズニーランドの建設へと続いていく、その連鎖の主役が正力であり、もう一方の主役がCIAを代表とするアメリカの情報機関、そしてアメリカ政府であった。」(P10)
筆者は丹念にアメリカの公文書館などの資料を調査し、「正力松太郎ファイル」を読み込んでいくうちにいろんな事実を再確認していたようです。
反共プロパガンダ機関として、巨大メディアを持っている正力松太郎とCIAの利害が一致したのでしょう。日本人の核アレルギーを沈静化するために「原子力発電は平和の証。資源のない日本伊は必要なエネルギー源」という執拗な宣伝を徹底的にした形跡がありました。
驚いたのはウォルト・ディスニー社がアメリカ海軍ご用達であったこと。ディズニー社は「わが友原子力」の科学映画の製作だけでなく、ディズニーランドのアトラクションの船の名前は、すべて米海軍の原子力潜水艦と同名であったということです。
最初正力氏の野心はマイクロ波通信網建設を一気に進め、TV業界を傘下に入れることでした。そのため反共宣伝で貢献したということで、アメリカ当局者に近づきます。しかしその思惑は頓挫し、かわって原子力発電の日本への導入にやっきになり取り組みました。
原子力発電の平和利用促進の博覧会まで正力氏は主催。傘下の新聞、TVを最大活用して宣伝しました。正力氏は「原子力の父」になりました。
時代は1955年の保守合同。60年の安保闘争。高度成長時代へ突入。テレビ文化全盛時代へ突入していきました。私が子供時代には、プロレス中継と、ディズニーの世界のTV,プロ野球が人気でした。食い入るように見ていました。政治には無関心で、面白おかしい娯楽番組。スポーツ番組にかじりつき、1983年に開業した東京ディズニーランドに熱狂する市民大衆に多くの日本人はなりました。原子力発電は「120%安全。電気の30%は原子力です。原子力発電は二酸化炭素を出しません」と言う大宣伝にすっかり「洗脳」されていたのです、
福島原子力発電所の大事故は、日本人がこの50年間全く考えてこなかった原子力発電所の問題を突きつけられました。学者や政府や専門家の意見は嘘が多く信用できない。放射能は見えないし怖う。不安が渦巻いています。
今日の原子力発電所の問題を検討する場合の「推薦図書」です。ぜひ皆さんも一読をお薦めします。
福島第1原子力発電所の事故は未だに終息する見込みはたっていないようです。
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