
「決断できない日本」(ケビン・メア・著・文春新書)を読みました。「沖縄はゆすりの名人」などと発言し、長年担当してきた沖縄担当専門の国務省を退職せざるをえなかったケビン・メイ氏。彼の言い分も聞かないといけないと思いました。
ケビン・メイ氏は1954年米国サウスカロライナ州生まれで、ラグネイル大学、ハワイ大学大学院卒で国務省に入省しました。米国でもIBリーグ以外のいわば人キャリアのたたき上げの外交官。
日本在日勤務期間は19年に及ぶ知日派。経歴を眺めていますと、駐日大使館、国防総省空軍副次官、国務省化学・生物兵器・ミサイル不拡散副部長、東京大学東洋文化研究所客員研究員、福岡主席担当公使、駐日大使館環境・科学技術担当公使、安全保障部長、沖縄総領事。2009年国務省日本部長に就任するも「ゆすり」報道で解任。
その後東日本大震災字には「トモダチ作戦」を主導、罹災地支援に米軍を動員する責任者となっておられました。2011年4月に国務省を退職。現在コンサルタント会社の顧問をしています。
確か奥様も日本人ではなかったかと思います。大変な知日家でありました。昔ライシャワー駐日大使という人がいました。あの人も奥様が日本人。日米両国に尊敬心を抱く人物でありました。しかし世間様の評価はめちゃくちゃ。国務省まで報道される発言で解任されましたから。
「沖縄の人々はごまかしとゆすりの名人」「沖縄の人々は怠惰でゴーヤーも栽培できない」「日本人は合意の文化を金儲けのために使っている」と非難した共同通信の3月6日の報道は、絶対に事実ではありません。これは作り話です。
日米安全保障について講義した3ヶ月近く後になって、生徒たちによって書かれたとされるメモにもとづいており、それはわたしの発言を意図的に歪めたものです。
本書の第2章を読んでいただければ、この報道にまつわる事件は、日本のジャーナリズムの基準からすると最低のレベルだとお分かりいただけると思います。この事件は、沖縄における日米の同盟関係を崩壊させようとする反基地運動の人々のによる罠だったのです。」(P14)
この後も日本の防衛省の官僚によるオフレコ発言が暴露され、沖縄担当の高官が解任され、野田内閣の任命責任が問われる事態になりました。沖縄問題はいまや日本政府の「鬼門」であり、日米同盟を揺るがす問題になっています。
一方中国は尖閣諸島を執拗に領海侵犯し、空母を建造したり対外侵略活動を強化する為に軍拡をしています。沖縄の普天間基地移転問題は、自民党政権も、2009年以来の民主党政権も解決できない課題として、のしかかっています。
年末にも移転先予定の名護市辺野古付近の「環境影響調査書」を防衛省が、沖縄県庁へ運び込もうとしてギクシャクしていました。今後の行く末が心配です。
長年日米同盟の実務当事者をになってきたケビン・メイ氏はどうそのあたりを考えているのか。またメア氏はなぜ「罠」にはまったのか。そのあたりをきちんと読んでみたいと思いました。
ケビン・メア氏の言い分を検討する為に、彼の著作から長くなりますが引用しようと思います。彼の言い分がそこには凝縮しているからです。

「福島原発事故後の政府・原子力関係者の対応は許しがたい酷さでした。)
「東日本大震災と津波、そして福島第1原発事故に対処してきた、米軍とアメリカ国務省のタクスフォース(特別任務班)の調整役として、わたしが直接目にしてきたのは、この由々しき危機に際して、日本のリーダーには決断力や即効性のある対応をする能力がないことでした。
私の批判は時に厳しく聞こえるかもしれませんが、現代の日本政治や日本人のリーダーシップが改善されることであろうことを願って書いたものであり、お許しいただきたいと思います。
危機後の日々における東北の人々の反応の仕方ーこのような圧倒的な困難にもかかわらず、規律が取れて我慢強いことーをニュースで見たことを思い出すとき、まだまだ3月でも寒い東北で小さないにぎり1個受け取る為に何時間も列に並び、深いお辞儀と「ありがとう」の言葉で気持ちをあらわす老人たちの姿を見たのを思い出すとき、私はいまだに涙ぐんでしまいます。
この災害後に東北の人々が示した誇りは、日本人全体の気品のある性格を示す証です。気品ある日本の人々には、いま現在いただいている指導力より、さらに高度なリーダーシップが相応しいはずです。」(「日本の政治指導力の無能」P14)
「本書では、日米同盟の重要性について、そして同盟において沖縄が果たしている絶対的に重要な役割についても説明しようと試みています。日本を取り巻く世界がいまだに危険に満ちていることを、沖縄も含む日本のリーダーたちは気づく必要があります。
彼らが、安全保障上の現実をもっとうまく国民のみなさんに説明しなければならないと思います。」
「私がアメリカ総領事とpして沖縄にいた3年間、沖縄の地元紙は私の「挑発的な発言」についてしばしば批判してきました。しかし私は、沖縄の人々に対して挑発しようと意図したのではなく、日米関係をより現実的な舞台におこなおうとしただけなのです。
現実はときに挑発的なものなのです。国家の安全保障に関しては、とくにそうなりがちです。その特殊な歴史や地理的な背景、何10年にもわたって多くの困難な事態に直面してきたことはわかりますが、安全保障の厳しい現実は沖縄も例外ではないのです。
沖縄の善良な人々にはもっと質の高いリーダーが現れるべきですし、、もっと現実主義的なリーダーが彼らには相応しいはずです。
「軍事的な問題がなくなり、沖縄は平和と調和のうちに生き続ける」といった漠然とした希望や思い込みこそ、非現実的なだけでなく、沖縄がまさに本当の脅威に直面した際には、じつに危険な考え方なのです。いまこそ沖縄の人々がそこに気付いてほしいと願っています。(「もっと安全保障の現実を見ていただきたい。」P17)
まさにいまもまた「沖縄の普天間基地の移設問題」で、日本政府と沖縄県全体「保守派も含めて)対立構造になってしまいました。実に危ない状態ではないのでしょうか。
またメア氏の見解は「米国を日本をどう見ているのか」という率直な見解ではないかと思いますね。アメリカ政府はある意味「模様眺め」であることはわかりますね。
メア氏は共同通信の石山永一郎記者の取材姿勢を批判しています。
「いくら参加者14名のうち4人の学生たちのメモがあるからといって、70日以上経ってつくられた「発言録」なるものが私のすべての発言を正確に再現できるものでしょうか。「発言録」ともっともらしく名づけていますが、私に言わせれば「メモ」に過ぎない。(P66)
メア氏の発言録をメモとして公表したアメリカン大学の学生たちは、沖縄へ行き「基地反対」の旗を掲げているような立場であったようです。しかも共同通信の石山記者は、彼らが来日した折に石山記者の自宅へ招かれていたそうです。
メア氏は日本と沖縄との関係も歴史をよく正確に勉強しているようです。
「沖縄県民の目から見れば、400年前に琉球王国として独立していたのに、その後、薩摩に支配され、明治維新後は県とはなったが本土から差別されてきた歴史があり、差別されてきたという意識がある。
沖縄のひとは自分から「本土に行くと,訛りがあるし肌の色も黒いし」などと言うこともある。そうした差別を沖縄の人々自身が心配し懸念しているーそうした文脈で話しをしました。だから沖縄のひとは日本政府をあまり信頼していない。お互いに信頼していないゆえに、基地をめぐる政治が複雑になっていることも解説しました。」(P78「嵌められたゆすりの名人報道」)
「かつて日米構造協議で問題になった大店法「大規模小売店法・2000年廃止)を例にとり、新しい大型の小売店が地元の商店街に進出する際には、そこの商店街組合と協議して合意を得ることになっていることを説明しました。
当時の大店法の下では、新しい店を開く為に利益の数%を組合に差し出すといった交渉がおこなわっることもあり、われわれのような他国の文化から見れば理解できない仕組みでした。自分の店と競合する相手の店に利益を差し出さなくてはならないというのは、他国から見れば「脅迫」にしか見られないと説明しました。
そういった文脈でブリーフィングのなかで使った言葉が、沖縄の問題にすり替えられています。」(P73)
確かにメア氏が日本通であったゆえに{罠」にはまったのかもしれません。{ゴーヤ発言」にしましても、{沖縄はサトウキビだらけ。それは手厚い補助政策があるから。ゴーヤはそれがない。それゆえ沖縄本島でもゴーヤが足りない情況になることがあり他県から移入している場合がある。」というメア氏の発言がいつのまにかゆがめられてメディアに伝達されたのでしょう。
悩ましい沖縄基地問題
歴史的に見ても、日本はアングロサクソンの国である米国・英国と協調していた時代「戦前では日英同盟)は、うまく行っていました。日露戦争後日英同盟を破棄してからおかしくなり、40年後の1945年には世界中を相手にした戦争に敗れ、国土は焦土化しました。
敗戦後は米軍の単独統治下におかれ、サンフランシスコ講話条約締結と同時に、日米安全保障条約に調印。独立後も続いて日本に米軍基地が置かれる事になりました。独立後日本本土への基地の返還は進みましたが、占領が続いた沖縄県では基地がむしろ増大しました。一部は変換されましたが、米軍基地の75%が、狭い沖縄本島に集中しています。

強権国家の中国、北朝鮮。ロシアという軍事大国が海を挟み日本と隣接している現実。沖縄の米軍基地の存在意義がますます大きくなりました。このあたりが実に悩ましいです。
以下のメア氏に発言は米国政府を代表する発言であるので注目です。
「平和な与那国。石垣両島に米艦が寄港すれば、中国を刺激するから寄港に反対するという意見も繰り返されましたが、これこそナイーブな考え方でしょう。米艦が両島に寄港して、これらの島を防衛するという決意を示すことによって、逆に中国に対する抑止力になるのです。
中国の目を気にして、米艦がこれらの離島防衛におよび腰になったら最後、中国は米側に守る意志はないと断じ、不穏な動きを見せ、沖縄周辺は一気に不安定化するでしょう。
領土的野心を募らせている国や勢力に対しては。弱腰な態度を見せてはなりません。常に抑止力を見せ付けておく必要がある。安全保障においては基礎中の基礎の理論です。」({非武装で抑止はできない」P164」
「ありったけの地獄を集めたと形容される沖縄戦を思うと、二度と戦争は起きてほしくはないと思う。実は戦争を起こしたくないのは軍人も同じなのです。自分たちの命が懸かるのですから。
しかし革新系の人たちのように基地をなくして非武装にすれば戦争が起きないという考え方はありえない。戦争を起こさないためには「抑止力」が必要なのです。十分{抑止力」を持つことによって平和は保てるのです。その上で、沖縄県民の負担を少しでも軽減したいと思う。
だからこそ、負担の軽減となる米軍再編計画を実行に移すべきなのです。今の再編計画を実行できなかったら、沖縄県民はかわいそうです。
しかし、沖縄が過去ばかり見て、太平洋戦争の被害者意識ばかりひきずって政治を動かそうとするのはよくない。過去のいきさつから複雑な県民感情はよくわかりますが、沖縄の政治指導者たちがその感情をしようとするのはおかしい。政治はもっと前向きな態度で進む必要があると思います。 」
「在沖縄米軍基地再編計画を実施すれば、沖縄本島の19%を占める米軍基地の面積は12%にまで削減されます。米軍基地再編問題というと、普天間基地移設問題ばかりが論じられ、全体像が見えにくくなっていますが、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の合意と併せ、米軍基地は劇的に減少するのです。

例えば最も広い北部訓練場の半分はヘリパットの移設などを条件に返還されますし、キャンプ桑江も全面返還の対象になっています。キャンプ瑞慶覧は部分返還ですが、残余の施設・インフラの可能な限りの統合が進められます。
牧港の補給基地も全面返還され、那覇軍港も全面返還されます。陸軍貯油施設第一桑江タンクファームも全面的に返還される。
嘉手納以南の人口密度の高い施設を縮小・返還して必要な米軍の能力は北部の既存の基地に移動する段取りになっています。米軍はこの再編によって、効率的に抑止力を維持できると判断しています。米軍基地が本島の12%の占有率に低下しても、抑止の為の前方展開能力は保持できると結論を出したのです。」「{被害者意識を乗り越えて」P182)
「普天間基地移設合意から15年経過し、事態は進展しないどころか、悪化してしまっている。最近アメリカ政府部内では移設が出来ないのなら、移転そのものをやめてしまえばいいという考えの持ち主が急激に増えている。
普天間基地移設がまだ可能であると振舞うのは、混乱が長引くだけで、なおたちが悪い。それだったら、思い切って移設を諦め。普天間基地を塩漬けにしてしまったほうがましだ、という意見が目立ってきているのです。」(P184)
メア氏の懸念は現実化しました。アメリカ議会は沖縄普天間基地の海兵隊をグアム島へ移転する費用負担の予算案を否決してしましましたから。
では解決策はあるのか?メア氏は以下のように言い切っています。
「外務省と防衛省と官邸が、沖縄県知事に対し、辺野古崎の埋め立て許可の申請を出せばいいのです。この埋め立て申請の提出は私がずっと日本政府に勧めて来たことです。
日本政府は自分が{悪役」になりたくないから多分、申請を出したくない。事前に知事と調整したいのでしょう。でも政府が申請を出さないことには知事は決断できない。知事が申請をどう受け止めるかによって、辺野古移転が実現可能か分かるのでしょう。
もし知事が辺野古移転を受け入れなければ、結果として沖縄県民に大変残念な事になります。このような大規模な負担軽減計画が立てられることは今後期待できません。知事の県民に対する責任は非常に重い。知事は政治の駆け引きばかりに明け暮れず、県民の将来と、沖縄周辺の安全保障の環境をよく考えて欲しいものです。もはや建前と本音を使い分けている場合ではありません。決断のときなのです。」
「しかし、政府も民主党も知事も、誰も{悪役」になりたくないのです。今のところ沖縄の基地問題における{悪役」はアメリカが引き受けています。
普天間基地移設問題の解決まで残された時間はわずかです。{悪役」アメリカもいよいよ痺れを切らそうとしています。しかし私たちにとって本当の脅威は軍拡をつづけ、沖縄を含む「第一列島線」への野心をあらわにする中国であることを忘れてはなりません。」(「辺野古した選択肢はない」P184)
メア氏の発言にアメリカ政府の言い分が凝縮しえちると思います。この発言からすると{辺野古移設」がベストで、普天間居座りが次善の策になりますね。{県外移設はありえない」とういうことになります。
同盟国アメリカの意向と沖縄県民の意向はどこまで行っても平行線。この際{悪役」を二歩政府が引き受けるしか情況打開の手立てはありませんね。
日本通のケビン・メア氏は最後にこう言っています。
「今回の大震災で、東北の罹災地の人たちは日本が凛として威厳に満ちた文化を持っていることを世界に示してくれました。水も食料もない中で、生き残った人たちは我慢強く耐え、略奪も強盗事件もほとんど起きなかった。実に、規律のある国民であることが世界に示されました。
こんな国民が多く暮らしている国がいつまでも低迷しているわけではない。政治がしっかりと決断し、国民を勇気付けながら明確な目的に向って進めば、必ず日本は新たな成功を収めると思うのです。
問題は政治のレベルの低さです。責任を取らず、自己保身を図ることが目的化してしまっている今の政治から、一刻も早く脱却しなければなりません。
The japanese people deserve politics.
日本人は今の政治のあり方に甘んじてはいけないと思います。日本の国民はもっとよい指導力、より良い政治に恵まれるべきです。」){P232)
日本を良く知り尽くした人物の提言だけに含蓄がありますね。日本の政治のありかたの総点検が必要であると思います。なかなかの力作でした。
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