「帝国主義」(幸徳秋水・著)を読んで
「帝国主義」(幸徳秋水・著・岩波文庫)を読みました。1901年(明治34年)に幸徳秋水の最初の著作本として発刊されました。レーニンなんぞの「帝国主議論」よりかなり早い時期の発刊です。
序文はキリスト教思想家・伝道者の内村鑑三が書いています。
「友人幸徳秋水君の「帝国主義」なる、君が少壮の身をもって今日の文壇に一旗を揚げるは人の能く知るところなり、君は基督教徒ならざるも、世のいわゆる愛国心なるものを憎むこと甚し、君はかつて自由国に遊びしこともなきも真面目な社会主義者なり、余は君の如き士を友として有つを名誉とし、ここにこの独創的著述を世に紹介するの栄誉に与らんを謝す。」(P4)
全体の調子は明治時代の文章で、現代文に慣れ親しんだ者としてはやや読み辛い部分もあります。しかし著者の幸徳秋水は大変な教養があり、古今東西の「覇権国家の事情を分析・解析」して20世紀初頭に現れた「帝国主義国」を分析しています。
「盛んなるかないわゆる帝国主義の流行や、勢い燎原の火のごとく然り。世界万那皆なその膝下に承伏し、これを賛美し奉持せざるなし。
見よ英国の朝野は挙げてこれが信徒たり、独逸の好戦皇帝は盛んにこれを鼓吹せり、露国は固よりこれをもってその伝来の政策と称せらる、而して仏や墺や伊や、頗るこれを喜ぶ、かの米国の如き近年甚だこれを学ばんとするに似たり。
而して我日本に至っても、日清戦役の大捷以来、上下これに向って熱狂する,かん馬のくびきを脱するが如し。」
「昔者平時忠誇て曰く、平氏にあらざるものは人にして人にあらずと、今の時において帝国主義を泰持せざる者は、殆ど政事家にして、政事家にあらず、国家にして国家にあらざるの観あり。彼れそれ果たして何の徳あり、何の力あり、何の貴重すべきであって、その流行の能くかくの如くを致せれるや。」(P15「緒言」)
幸徳秋水さんは、国家経営の本質を以下のように的確に述べています。
「けだし国家経営の目的は、社会永遠の進歩にあり、人類全般の福利にあり。然り単に現在の繁栄にあらずして永遠の進歩にあり、単に少数階級の権勢にあらずして全般の福利にあり。
而して今の国家と政事家が奉持せる帝国主義なる者は,吾人のためにいくばくか「しゃこ」の進歩に資せんとするか、いくばくか「しゃこ」の福利を与えんとするか。」(P15)
帝国主義の「本質」と「危険性」を幸徳秋水さんはこうも述べています。
「然りその発展の跡に見よ、帝国主義はいわゆる愛国心を経となし、いわゆる軍国主義を緯となして、もって織り成せるの政策にあらずや。」(P18「愛国心を論ず」
古くはギリシャ時代のスパルタの軍国主義やローマ帝国時代の戦乱などを幸徳秋水は論じ、特に19世紀後半から20世紀初頭の西欧列強のアジア・アフリカ進出と侵略の歴史も正確に考察されています。
「古の帝国主義は個人的帝国主義なりき。今の帝国主義は名けて国民的帝国主義と称すべし。」(P89「帝国主義を論ず」)
19世紀は移民も多い世紀でした。移民が領土拡張政策に影響を与えているかといえば、全くそんなことはないと幸徳秋水さんは断じています。
「移民のためということなかれ、移民は領土の拡張を必要とせざるなり。」
「貿易の為ということなかれ。貿易は決して領土の拡張を必要とせざるなり。」
「領土の拡張を必要とするものは、ただ軍人政治家の虚栄心のみ、金融及鉄道の利を追う投機師のみ、軍需を供するするの御用商人のみ。」(P112「帝国主義の現在将来」)
そしてこう断じています。
「帝国主義なる政策は、少数の欲望のために多数の福利を奪うものなり、野望的感情のために科学的進歩を阻害する者なり、人類の自由平等を殲滅し、社会の正義道徳をしょうぞくし、世界の文明を破壊するの「とぞく」なりと。」(P114)
古い表現がもはや111年(1901年→2012年)も経過しますと意味不明な箇所もありますが、大意はなんとか理解できます。
幸徳秋水の予測どうりに、帝国主義国同士の覇権争いから、20世紀には2度の世界大戦がおきました。まその後も世界各地で戦火の途絶えることはありません。
帝国主義は文明をすべて破壊する。ことを肝に銘じ観察しないといけない。
一読してなかなか教養のある人物であると関心しました。それにしても大逆事件では,第1級の知識人を冤罪で処刑した日本国は本当におかしくなりましたね。大逆事件(1911年)から34年後に日本は世界中に戦争を仕掛け国土は焦土になりました。
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コメント
しばやんさんコメントありがとうございました。
市場原理主義、グローバル主義(アメリカ第1主義)は、形をかけた覇権主義であり、帝国主義ではないかと思います。
その市場を守る為に軍を世界上に展開しているのもアメリカの国益のためだからですね。
投稿: けんちゃん | 2012.04.09 17:34
「少数の欲望のために多数の福利を奪うものなり、野望的感情のために科学的進歩を阻害する者なり、人類の自由平等を殲滅し…」のくだりは、アメリカが世界に押し付けてきたグローバリズムに通じるところがありますね。
ピントが外れているかもしれませんが、今のアメリカのやり方は、かつての帝国主義のように領土を奪い取ることはありませんが、全世界に投資をして投資先から利益を搾り取って世界を疲弊させるところは、どこか帝国主義に通じるところがあるように思います。
投稿: しばやん | 2012.04.08 22:35