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2012.05.19

「靖国の戦後史」を読んで

Yasukunisengoshihon


「靖国の戦後史」(田中伸尚・著・岩波新書・2002年刊)を読みました。4月の連休前は仕事が立て込んでいまして、「良性頭位性めまい症」でダウンし、1週間程度読者が一切できませんでした。

 とにかくパソコンでの作業が苦痛でした。世間様の言う大型連休(うちは4月30日と5月4日は出勤)に入り、サポートですが2回海へ行きセーリングしたのでようやく調子が戻りました。

 さてこの本は「重たい」ですね。テーマがテーマだけに。3月に井上古書店で390円で購入していました。ようやく読み終えました。

 扉に著者がこの本の目的を的確に書かれています。

「GHQの神道指令から小泉参拝いたる半世紀、国家の靖国関与や了承なき合祀の動きが様々な形でくり返されるなかで、それに異議の声を上げ、裁判や言論の場で闘ってきた人々がいた。

 数々の事件を取材しながら、戦後日本が政教分離や戦争責任の問題にどう向き合ってきたのかを振り返り、国家が死者を追悼する意味を問う。」

 小泉内閣時代に書かれています。アメリカの「忠犬」であった小泉純一郎氏が、靖国参拝を繰り返していた時期でした。

 敗戦後国家神道は、占領軍により解体されました。敗戦後靖国神社は再生され、日本国内の国論は分裂し、対立構造を作り出してきました。その理由を知りたくてこの著作を読みました。

 キリスト教や仏教の宗教関係者から親族の靖国神社に合祀されているので、取り下げていただきたいとの要求が戦後も数多くありました。靖国神社側はその要求をことごとく拒絶してきました。靖国神社側はこう回答しました。

「靖国神社は、その創建の由来が明治天皇の「1人残らず戦死者を祭るように、いつまでも国民に崇敬されるような施設(神社)を作れ」との御聖旨により創建されたものであるから、遺族や第3者が、祭ってクレとか、祭ってくれるなといわれても、そのような要求は断らざるを得ない」(P118「池田権宮司」)

 キリスト教や仏教やその他新興宗教の信者は日本に数多くいます。その信徒が自らの宗教的な信条と何の関係もなく、断りもなく合祀されるのは耐えられないという訴えはよくわかります。

 靖国神社は「別格」の宗教団体なんでしょうか?

 ある町で町内会の会費の中から地域の神社に寄付がされていました。転入してきたキリスト教徒の人が、抗議し、寄付を拒絶したそうです。そしたら町内会幹部はこういったそうです。

「あなたは個人の宗教と公の宗教を混同されています。あなたが個人としてキリスト教を信仰されるのは自由です。しかし神社はこの町の「公の宗教」です。

 神社に反対するひとは日本人じゃない。」と。

 また旧植民地の遺族の人たちは、(敗戦後外国人とされ)遺族授護法の対象からはずされているにもかかわらず、死没した肉親のなかには靖国神社の英霊とされ、合祀されているひとたちがある。」(P40)

 この問題も大きな問題であり、韓国や台湾の遺族の人たちからも合祀の取り消しの要望も出されています。

 筆者は「なぜ国家が追悼するのか」という項目の中で次のように述べています。

「こうした戦没者のための国家儀礼の施設についてのこれまでの議論には、国家はなぜ戦死者を追悼するのか、国家の追悼はなぜ感謝と敬意なのか、戦死者を一様に「命を捧げた」と称えるのはどうしてなのか。

 なぜ死者は犠牲者とされ、被害者とされないのか。なぜ国家はそのような施設を必要とするのか。そのような国家装置こそ国民に新たな死を強い、戦争を繰り返させてきたのではないか」P236)

 グローバル化する社会と国家儀礼装置についてもこう述べています。

「時刻の戦死者のみを記憶する装置は、他者や少数者を排除する狭隘なナショナリズムを継承する装置になる危険性をもつという。

 戦争をどう記憶するkという仕組みに関しては、むしろ変化しつつあるグローバルな世界において、今後数10年のうちに、これまで欧米における20世紀の「普通のナショナリズム」のモデルとして継承されてきた記念碑的な装置や儀式は変革を迫られる。
 
 新しい戦争の記憶のシステムには、なによりも「彼我の死者」の境界をまたぎ越して、単一ではない、個々の記憶を共有しあう営みこそが必要だという。」(P237「グローバル化の中での国家儀礼装置」)

 なかなか考えさせられるテーマの著作でした。いろんな立場の人たちに一読をお薦めします。

 個人ブログ記事「靖国神社へ行きました。」

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