「腰抜け愛国談義」を読んで
「腰抜け愛国談義」(半藤一利・宮崎駿・文芸春秋社2013年刊)を読みました。家内がアマゾンでご贔屓の韓流ロックバンドCNBLUEのDVDを購入するついでに買ったそうですので。
ジブリの2013年のアニメ作品「風たちぬ」を鑑賞することもあり、読んでみました。半藤一利氏は「日本の1番長い日」などで知られる作家。今回の対談は宮崎駿氏の希望で実現したらしい。
夏目漱石の話題で対談は始まりました。漱石は洒落のある人でしたが、機嫌の悪いところも多く狂気の人であった。半藤一利氏は漱石の孫娘が奥様。
「坊ちゃん」と言う小説は短期間で一気に書かれたもの。それは夏目漱石が東大の教官時代に入学試験の試験委員に教授会により選ばれました。漱石は「おれは多忙だからお断りする」と言ったので大騒ぎになりました。結局悶着を起こして東大を辞めることになりますが、坊ちゃんの登場人物の赤シャツなどは東大の教授がモデルだと半藤氏は言います。
半藤「いずれにしても日本が、この先世界史の主役にたつことはないいんですよ。」
宮崎「ないですね。ないと思います。」
半藤「また、そんな気を起こしちゃならんのです。日本は脇役でいいんです。小国主義でいいんです。そう言うと,世には強い人がたくさんいましてね、そういう情けないことを言うなと、私、怒られちゃうんですから。」
宮崎「ぼくは情けないほうが、勇ましくないほうがいいと思いますよ。」
半藤「腰抜けの愛国論というものだってあるのだ。」と声だけはちょっとおおきくして言い返すのですがね。(笑)、へっぴり腰で。
宮崎 ええ、ほんとうにそう思います。いいですね、腰抜け愛国論か・・・。(P77)
「風立ちぬ」の場面で、汽車を降りて堀越二郎と、菜穂子たちが上野の山に避難する場面があります。半藤氏の母親が実際に2日間避難していたようです。「いずれにしても、関東大震災(1923年)のあの燦燦たる日本から映画を始めたのは、昭和の入り方としては」なかなかいいぞ、と思いました。(半藤一利 P111)
堀越二郎と本庄がドイツのユンカース社へ技術研修に留学しますが、酷い扱いは事実だったようです。当時(昭和4年・5年頃)のドイツは反日的で、日露戦争時や一次大戦では日本と敵対、中国を支援していました。半藤氏はよく描かれていたと言います。
宮崎駿氏は、ゼロ戦は曲線が難しく、だれが描いても武骨になり、本物らしく描けない。だから映画の最後のほうで15機がまとまって飛んでいく場面になったと言われました。諸外国からは量産化に向いていない軍用機で、日本は1万機もよくぞ量産したものだと逆に関心されていたそうです。
半藤「…中略
結局「持たざる国」日本は国力のみならず先見性もなかったんですね。映画の中で、ゼロ戦を牛車で運ぶ場面がありましたね。名古屋の向上から各務原の飛行場まで丸1日かかった。というのは有名なエピソードですが、トラックでの輸送もそのための舗装道路も、最後まで実現できなかった。非常に象徴的なシーンです。」
宮崎「でも堀越さんは著書で、牛車で運ぶのも、当時の道路事情から考えると合理性があった、と書いていますね。それほどたくさん製造していないから、ゆっくり運んでもいいのだと弁護している。きっと牛が好きだったんでしょう(笑)」
半藤「映画の中で、ドイツから爆撃機のライセンス生産権を買い取るお金で、どれだけの国民が飢えをいやせるか、というセリフがあります。たしかに貧乏国家に不釣り合いなほどの強大な軍事力を持とうと無理をしました。」(P241)
一読して、大正末期の関東大震災が昭和の幕開けとなり、国力を無視した法外にお金のかかる軍用機の製造に明け暮れた日本社会の現実。堀越二郎氏は画期的な軍用機を開発した技術者。開発をめぐる周囲の人たちや社会を描くことにより、昭和初期の日本社会の現実が描かれていました。
安倍内閣の閣僚に「戦前回帰」の傾向があり、あたかも戦前社会(昭和初期の時代)を理想とする言辞を言う人たちがおられます。
最新鋭の開発軍用機を牛車が引っ張っていくような国が、身の程知らずで、全世界を相手に無謀な世界大戦を引き起こし、無残に敗戦した現実を歴史から学ばないといけませんね。
「腰抜け愛国談義」は、ジブリ映画「風立ちぬ」とセットになってますね。両方読んで、見ると時代背景や社会がよくわかりました。
この映画は各種の国際映画祭にまたもノミネートされているようです。結果はどうなるのか不明ですが、またもや宮崎駿氏が「巨匠」として持ち上げられることに、同じ業界人の押井守氏は心配しておられました。あるメディアで読みました。
「(宮崎さんは)めちゃくちゃな人だからさ。そのめちゃくちゃなところがあの人のいいところで、寄ってたかって人格者とか巨匠にするなという話なんだよね。
1回だからすごいスキャンダルでも起こっちゃえばいいなと思ってるんだけど。そうするとかなり自由になると思う。」と。次は宮崎駿氏のスキャンダルでも出れば確かに面白い。
彼が「再生」されるには、案外押井守氏の指摘は当たっているのかもしれませんね。
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