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2014.02.01

「裁判100年史ものがたり」を読んで

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 「裁判100年史ものがたり」(夏樹静子・著・文芸春秋刊・2012年)を読みました。フェイスブックで早川義輝さんが高い評価の感想文を書いておられました。高知で購入しようと、片桐書店、金高堂、宮脇書店とまわりましたが在庫していません。困り果ててアマゾンにて注文して取り寄せました。
 
 感想は、[裁判はこんなに面白いものなのか!」という高揚感があって読みました。

 「ロシア皇太子襲撃、大津事件」の裁判官児島惟謙は、政府内閣の圧力や脅しは[襲撃犯を即処刑しろ。そうしないと対面に関わる。」という圧力にに屈せず、適切な審理で被告を無期懲役の判決を下しました。

 内閣側は[天皇への不敬罪」を外国元首にも拡大適用せよとの主張でした。裁判官の児島惟謙は、「津田三蔵の犯罪を刑法116条をもって罰することは、国家百年の大計を誤るものと断じるするほかはない。外国の法律を参照すると、ロシア、ドイツなどは他国の君主に対する犯罪の規定を設けているが、自国に対するよりはるかに軽く、しかも皇太子は含まれてはいない。その他の国々は日本と同様である。

 「これに反し、今回曲げて皇室に対する罪を適応すれば、刑法を侵し、また憲法をも破壊するものである。わが天皇陛下に対するものと、他国の君主、皇太子に対すると同様に対処するに至っては、わが」刑法は主権のないことを自ら認めるものである。これを独立国とよべるであろうか。」

[ロシアは決して野蛮国ではなく、今回の1事をもって直ちに不法酷暴の要求をなし、外国の非難を招くような拙計を取るはずはない。今、こちらがたやすく法律を曲げるならば、国勢の衰弱をきたし,列国は軽蔑侮慢の念を増長して、非理不法の要求を突き付けてくることも予想される。

 このように、政略上からしても、法律を曲げることは断じて許されない。それは万世雪ぐことのできない国辱を歴史に残すことになると考える。」(P20)

 大変勇気のある判決で当時も後世でも高く評価されています。大日本帝国憲法が発布した2年後のこと。裁判に対する政府の露骨な干渉をはねつけたことっで、裁判の行く末を見守っていた先進諸国は、ようやく日本を近代国家と認め、判決の3年後から幕末期の不平等条約の改正が実現し始めました。

 しかしその後の大逆事件の裁判と判決はひどいものでした。短い裁判では被告側の法廷陳述も全く採用せず、即死刑の判決。すぐに処刑までされました。社会思想家であった幸徳秋水は全くの冤罪でありました。

 二次大戦中の翼賛会選挙の場合も翼賛会候補者陣営の執拗な選挙干渉は、違法行為いいであるときちんと判決を下した勇気ある裁判官もいました。「帝銀事件」「松川事件」「チャタレー裁判」「八海事件」「尊属殺人」「永山則夫」「被害者の求刑」ととても読み応えのある内容でした。

 傑作であると思います。一読をお奨めします。

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