
「新・戦争論」(佐藤優。池上彰・著・文春新書・2014年刊)を読みました。佐藤優氏と池上彰氏との奇妙な取り合わせ、対談に興味があったからです。ご両人とも精力的な活動で飛び回っている傍ら、著作を出すとは。とてもスーパーなご両人です。
世の中「情報を発信すればするほど、情報が入ってくる」というのは原理原則です。私個人の小さな世界においても、このところ300M四方の町内の地域防災活動しかしていない私のところへ、全国メディアの取材や、学識者の調査が来られます。取材もされますが、地域では知ることができない「情報」もまた提供していただけるからです。
そういう意味において、ご両人は活発に動いています。また官僚や企業と言う組織にも属さずフリー職業人であると言うことも、情報に偏りがなく入手でき、発信できますね。
読んでいくと早速興味深いテーマについて言及されています。
少し長いですが引用します。(以下引用)
佐藤「今、世界では、「力」と言うものが、軍事、政治、金融、産業、科学技術、情報というように分散した形で存在しています。ところが現在に日本は、いずれも弱いように見えます。一方であまり難しいことを考えないで激しい行動を取ると言う意味では、日本もかなり乱暴な力をふるっています。
兵庫県の県会議員が号泣し、それがネットに流れて話題になりましたが、世界から日本は、あの議員に近い感じで見られているのではないでしょうか。
というのも、朝鮮半島有事に備えて集団的自衛権を閣議決定する一方で、すぐに北朝鮮の制裁を1部解除してしまう。そして、集団的自衛権を確保しても、いま最も緊張している中東へが行かないと、イラクと言う国名まで出して言明していました。」
池上「支離滅裂ですね。北朝鮮がミサイルを撃っている最中に制裁解除するなど考えられない話です。
もう1つ、滅茶苦茶な事を上げれば、朝鮮総連本部のビルの競売が止まってしまっていることです。最高裁が朝鮮総連の不服申し立てを受けて、売却手続きを一時止めました。三権分立はどこへ行ったのかと思います。」
佐藤「裁判所の過剰附度ですね。」
池上「裁判所が政治的に動くと言うのは、拉致問題を解決するために必要であったかもしれませんが、本来、法治国家においては、あってはならないことです。」(「外からは奇妙に見える日本 P16)
ここからが1つ注目すべきところです。集団的自衛権の問題についてのやりとりです。
佐藤「こうした支離滅裂がとくに顕著だったのが、集団的自衛権の問題です。
2014年7月1日に「集団的自衛権の行使を認める」と言う閣議決定がなされました。
あのときホルムズ海峡の国際航路帯の封鎖が議論されましたが、たとえ封鎖されても、日本の自衛隊は絶対に出動できません。

それを安倍総理はどこまで知っているのか。知っていて集団的自衛権を振りかざしているのなら不誠実ですし、知らないで言っているとしたら恐るべき無知です。なぜなら、国際航路帯は公海でなく、オマーンの領海を通っているからです。
そもそもホルムズ海峡の周辺は、アラブ首長国連邦の領土なのですが、海峡を望むムサンダム半島の先端だけは、オマーン領の飛び地になっていて、オマーン政府が海上をパトロールしています。
なぜかといえば、オマーンは、船乗りシンドバットの国で、かつてマダガスカルからインド洋まで展開していた海洋大国だったからです。そういう経緯から海上交通の要衡は、飛び地のようにオマーンに属しているので、もしイランがホルムズ海峡を封鎖するなら、オマーンの領海内に機雷を敷設することになる。
国際法では、他国の領海内に機雷を敷設すれば、その瞬間に宣戦布告として扱われ、戦争状態になります。ところが「戦闘状態の地域には自衛隊は行かない」と言うのが、今回の集団的自衛権に関する閣議決定の縛りです。
もちろん国際法的には戦争状態だが、戦闘は起きていないという説明は一応可能です。しかし、現実的に考えて、日本とイランが戦争状態になる。ホルムズ海峡での自衛隊の機雷除去の可能性はありえない。
自民党は、公明党にひきずられたのです。自民党が得たのは「集団的自衛権」という名前だけ。これで自衛隊は出動できない体制になりました。」
池上「まさか、佐藤さんが公明党に入れ知恵をしたのでは?(笑)
佐藤「いえ、そういうことはしていません。公明党がしたことを事後的に解釈しただけです。(笑)むしろ公明党は、支持母体の創価学会と価値観を共有し、日蓮の「正しい原理をもってすれば国は安定する」という立正安国論を貫いたわけです。
日本人の母親と子供がアメリカ船に乗って避難する、と言うことは、日本船は既に出せない状況になっている。アメリカ船は、まずアメリカ船は、まずアメリカ人を、次にイギリス人を避難させますから、アメリカ人もイギリス人も逃がして、その後のの残り船で日本人を逃がすと言うのは、危機の末期。
日本にある米軍基地から北朝鮮を攻撃しているはずです。それでも北朝鮮側は、避難船を黙って見過ごして、ミサイルの一発も撃ってこないのか?小浜や柏崎の原発に特殊部隊を上陸させて工作などしないのか?そんなはずはない。
一つでも、工作がされたり、ミサイルが飛んで来れば、その瞬間から個別的自衛権の適用になりますから、集団的自衛権というのは、そもそもありえない想定なのです。」(P19)[有名無実の集団的自衛権)
先に大戦でも沖縄から疎開しようとした大勢の児童生徒を乗せた対馬丸が米国の潜水艦に魚雷攻撃され撃沈され、多くの子供たちが亡くなりました。戦闘状態になれば、当たり前の光景になります。安倍総理の「たとえ話」は荒唐無稽です。
引用はまだまだ続きます。
佐藤「なのに、なぜ安倍総理はあれほど集団的自衛権に拘ったのでしょうか。
木戸御免で総理に会える人が、「おじいいさま(岸信介)の思いですね」と言ったら、総理は、満面に笑みを浮かべ、「そうなんだよ。岡崎久彦大使にも言われた」と答えたそうです。
「だから、このことでは安倍さんは絶対に折れないよ」と、その人が言うので、私が「そうなると、これは新聞の政治面や国際面の話題ではあにですね。生活・医療面の心のページですね」と答えました。まさに「心の問題」です。
おかしいのは総理ばかりでなく、メディアも変です。集団的自衛権に対する公明党の出方を、朝日新聞は[苦しい対応](朝日新聞デジタル版。2014年7月2日付]と批判しました。しかしこの批判は妥当ではありません。
なぜなら、以前から、日本政府は、国内法と国際法を使い分けることをしていたからです。つまり、かつて政府が行ったインド洋での石油供給、イラクへの自衛隊派遣も、日本政府が個別的自衛権で説明しても、それは国内的な説明に過ぎず、国際法的には集団的自衛権の行使と解釈するのが通常でした。
今回の閣議決定は、その縛りを従来よりはきつくしてしまったことになります。
閣議決定について、公明新聞(2014年7月2日付け)は、安倍総理が山口那津雄公明党代表に、「個別的、集団的かを問わず自衛のための武力行使は禁じられていないという考え方や、国連の集団安全保障措置など国際法上合法的な措置に憲法上の聖お役は及ばないという考え方を採用しない」と明言したと書いています。
これは公明党が従来の枠組みを超えて、自衛隊が海外に出動できないようにネジを締めた、という勝利宣言です。この2つのポイントは外交のプロでないとわからない、しかし要の問題なのです。」
「さらに集団的自衛権による武力行使の新三要件の一つとして[我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合という規定が加えられましたが、「明白な危険」というのは、国際法上にはかなり強い縛りです。
朝日新聞は「苦しい対応」と言う言葉で「公明党の虚勢だ」と書いているわけですが、朝日新聞のほうがよくわかっていません。
首都大学東京の木村章太郎准教授が、「集団的自衛権」と称されているものの内実は、実際は、個別的自衛権と、集団的自衛権の重複する領域の事象で、従来の政府見解を一歩も踏み越えていないと述べて、さらに「明白な」という一言で、公明党が自民党とタイに持ち込んだ、と言っていますが、まったく彼のいうとうりなのです。
さらに重いのは「集団安全保障はやらない」と安倍総理から言質を取った事。
池上「実をとったのは公明党、ということですね。」
佐藤「公明党にしてやられた閣議決定を、さらに法制化などしたら、それこそ大変だということで、外務省などは、もうみんな力が抜けています。
尖閣諸島や中国との関係で大変なことになったら、集団的自衛権の行使で助けに来てください。しかし自衛隊は中東へは行きません。うちの役に立つときは助けに来てください。しかしこちらからは助けにいかないけど というのが日本流の集団的自衛権です。
これでは日米同盟を毀損するのでは、と外務省の安保担当者が心配しています。この閣議決定を実施するための法律をつくれば、ますます困った事態になります。」(P22)
引用終り。
まさに今の「安保法制」=戦争法案が、閣議決定より1歩踏み込んだものになっているのでしょうか?今一つわかりません。
安倍首相の言う「集団的自衛権」なるものが、佐藤優氏の言われるとうりであれば、今までと変わりません。ただ今度の国会に提出され、衆議院で強行採択されたあんぽほうせいうなるものが、自衛隊を地球の裏まで米軍とともに本当に行くのか検証の余地はありますね。
佐藤優氏の言追われるとうりですと、従来と何ら変わることなく「安倍総理は集団的自衛権」と言う「名ばかり」の言葉をとったものの、実態は全く体制ができていません。
安保法制が「わかりにくい」には、こうしたいきさつがあったからでしょう。与党間でも自民党は「世界中に自衛隊を派兵することで国際貢献ができる」と言うです少子、連立与党の公明党は「自衛隊の海外出動を止めた」と言うでしょう。
そのあたりはどうなのでしょうか?
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