「オールドテロリスト」を読んで
村上龍という作家の作品は今まで読んだこともありませんでした。私と同世代で。作家として成功し、たまに「カンブリヤ宮殿」とかいう番組を視聴する程度。
今回月に1度の老師(89歳)の整体を受ける前に、移転直前の金高堂書店で新刊で「オールドテロリスト」(村上龍・文藝春秋社・2015年5月刊)で購入しました。
タイトルに魅かれたからですね。とにかく父(96歳)の世代が、多くは戦争で亡くなり、敗戦後懸命に働き今日の経済大国日本をつくりました。しかし近年平和国家の理念を破り捨て、戦争体験のない非常識で浅薄な自民党安倍内閣は「戦争法案」で再び日本を戦争への道へ引きづりこもうとしている。
父(96歳)も戦中派。旧制工業高校を卒業後朝鮮総督府で鉄道技師として勤務していました。徴兵されましたが、結核になり除隊。何とか回復し、再び徴兵されましたが、敗戦で外地へ派兵されることなく生きのびました。
敗戦後は懸命に働き、中高年になり小さな会社をこしらえ89歳まで働きました。しかしなけなしの年金から政府は介護保険の負担を1割から2割負担とし、搾取されています。
父は「戦争はいかん。誰もいいことはない。」といいます。
「オールドテロリスト」は、父の世代の超高齢者の老人たちをリーダーに、社会的にも成功した70代、80代の老人たちが義憤にかられ、「日本を焼のが原にしてやり直す」ことを目的に次々とテロを引き起こす展開。
主人公はカツラギという50代の元出版社勤務のフリーライター。外資系金融機関勤務のキャリアな経歴の妻からは離縁され、ホームレス寸前の暮らしをする精神的に不安定な冴えない中年男。
偶然元いた雑誌社から契約社員として仕事があり、取材先のNHKのロビーで爆弾テロに遭遇。その後、街頭でのテロや、映画館での毒ガステロにも遭遇する。ウェッブマガジンに最初と2回目のテロに遭遇した記者としての目撃記事を掲載する。
さすがに大規模な映画館テロ以降は書くことができなくなる。偶然(?)取材先で知り合ったカツラギという20代のスレンダーな女性との同行道中もめまぐるしい。
やがてテログループに引き寄せられ、執筆依頼を受ける。巨大な88ミリ対戦車砲(2次大戦時のドイツの武器)が登場し、原発を破壊し日本を焼きつくすことを冷静に淡々と実行しようというオールドテロリストの爺さんたち。
「70代から90代の老人たちが、テロも辞さず、日本を変えようと立ち上がると言う物語のアイデアが浮かんだのは、随分まえのことだ。
その年代の人々は何らかの形で戦争を体験し、食糧難の時代を生きている。だいたい、殺されもせず、病死も自殺もせず、寝たきりにもならず生き延びるということ自体、すごいと思う。
彼らの中で、さらに経済的に成功し、社会的にもリスペクトされ、極限状況も体験している連中が、義憤を憶え、ネットワークを作り、持てる力をフルに使って立ち上がればどうなるのだろうか。どうやって戦いを挑み、展開するのだろうか。そういった想像は、わたしの好奇心をかきたてた。」(あとがき P364)
筆者はそういう問題意識を持って、多数の人達に取材し、聞き取りをして構想を練ったようです。「戦争を体験し、食糧難の時代を生きている。だいたい、殺されもせず、病死も自殺もせず、寝たきりにもならず生き延びるということ自体、すごいと思う。」ことは、うちの両親(父96歳・母89歳)がそうした存在です。
同世代であるので、読んでいて「違和感」を感じるのは、それほどの義憤を継続できることが可能であるのかというぎもんですね。父の場合はここ7年ぐらいは脳血管障害と慢性腎不全の危機は乗り越えています。義憤などはなく、健康志向でゴルフを異したい一心で生きのびているとしか思えません。
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