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2015.12.22

「大世界史 現代を生きぬく最強の教科書」を讀んで


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「大世界史 現代を生きぬく最強の教科書」(池上彰・佐藤優・著・文藝新書・2015年刊)を読みました。とても良い良書であると思います。通読をお薦めします。

 佐藤優氏と池上彰氏の対談集を読んだのは「新・戦争論」以来。現在世相を知るための早わかり本の領域を遥かに超えた教養本であると思いました。それゆえ、この本に事例のために出てくる事例のために高校参考書コーナーで「山川 世界史総合図表」という参考書を購入しましたから。

 「下部構造が上部構造を規定する」とかいうスターリン主義的な単純な「唯物史観」では割り切れないでしょう。はなから吉本隆明氏の「共同幻想論」は今でも完全に理解できないでいますから。
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 「イスラム国」なる集団の残虐性と市民社会を破壊するテロ行為を探るのは、彼らの根拠としている歴史を見て行く作業が必要であると思ったからです。鍵を握っているのはトルコ。エルドアン大統領は明らかにイスラム国と結託しています。


 シリアのアサド大統領を追い詰めようとしています。ロシアはアサド大統領支援のためにシリア国内の空爆を始めました。トルコ軍がロシア軍の爆撃機を撃墜。緊張が高まりました。150年ほど前にはロシアとトルコは戦争してますから。

 オスマントルコは中世の時代広大な領土を有し、西はスペインから東欧南部のハンガリーまで占有していました。20世紀前半まで欧州には脅威を与えていたイスラムの国です。ロシアとは常に対立していました。
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 第1次大戦世界大戦でトルコはドイル側に付いたために、英国とフランスは中東諸国で暗躍、各部族と結託トルコへの反乱と独立の仮約束をし、戦争に敗北したトルコ支配地区を分割し、今の中東諸国の国境線を人工的に引いてしまいました。

 中東地域は東西交通の要でしたが、1938年頃に石油資源が発見されてから世界の利権が集まり、余計事情が複雑になりました。

「アラブの春には民主主義をつぶす機能しかなかった。政治的にイスラムと民主主義はなじまないことがはっきりした。

 アラブの分裂に乗して、非アラブのイランとトルコが、帝国としての自らの影響力を拡大するチャンスと思い始め、拡張主義政策をとっている。」(P49)
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 まるでかつての「ペルシャ帝国」VS「オスマントルコ帝国」。それに「ロシア帝国」も絡んでいる。「大英帝国」と「フランス帝国」も絡み、20世紀の覇者「アメリカ帝国」までは介入しています。中東にはユダヤの国であるイスラエルまでありますから。
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 イスラム国は「預言者ムハンマド」を絶対視していて、当時の全盛期のイスラム帝国の再興を行動原理にしています。当然イランとは対立しますし、トルコともいずれ対決するでしょう。イスラム帝国の社会と西欧市民社会は相容れない。市民生活を狙っているテロにしても、「信念に元づき平然と実行したのではないでしょうか。そうなるととても解決は難しい。
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 移民に寛容な政権政党が衰退し、排外主義的な極右政党が欧州で台頭してきています。かつての「十字軍」的な感覚で「報復」を声高に言っています。そうなると100年以上憎悪の報復合戦は続きます。
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 また「ウエストファリア条約をきっかけに人権と言う概念が出てきた。これは画期的だった。」(P198).新旧両教徒の殺戮と戦争状態で欧州は疲弊したのですから。
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 「過去の帝国の存在が、世界各地で現代にも大きな影響を与えている。」(P171)なのです。
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 習金平の中国帝国は、理想は明帝国。領土拡張主義的であり、鄭和は南シナ海を航路にしたのでそこは中国の領土であると主張しています。南沙諸島をわがものにしようという強引な帝国主義的な政策の根拠は明帝国とすると、とてもわかりやすい。

 最近の韓国政府の反日政策や言動は常軌を逸脱していると思わざるを得ないところがあります。そのあたり韓国の歴史教科書の危険性を指摘しています。

「韓国は反共国家でした。だから唯物史観を認めない。そのため日中の歴史教科書と違って歴史観がんばい。というより世界の教科書のなかでも珍しい「テロリスト史観」によって貫かれています。

 「我が国の先達はここまで追い詰められ、テロをせざるを得なかった」と延々と綴られているのです。
 
  これは、日本にとって脅威と言っても過言ではありません。北朝鮮の歴史教科書よりも過激な内容です。韓国のテロリストと言えば、伊藤博文を暗殺した安重根がまず思い浮かびますが、扱いは意外に小さくて、より大きく扱われているのは,朴烈です。」(P97)

 このような歴史教科書でいくら大学入試の勉強しても国際社会では通用しませんね。
 
 北朝鮮は規模はともかくソ連領内での金日成の抗日運動がありました。韓国はそれが殆どありませんでした。韓国の歴史教科書においても「国をとりもどすために韓国人は日帝に立ち向かって絶えず闘争した。その結果国を取り戻すことが出来た。しかしこれは韓国人の独自の努力で得られたものではなかった。」と冷静に記述はしているようです。

 そのことを日本人だけには言われたくはないという感情は韓国人にはあるでしょう。

 池上彰氏と佐藤優氏の対談では、「世界史を知ることが、現代社会を見る参考書になる」ということを思い知らされました。確かに言えるところはありますね。20世紀の世界の覇者であるアメリカ帝国が衰退してくると(とはいえ未だに圧倒的な軍事力はありますか・・)、ロシアだ、イランだ、トルコだ、中国だ、ドイツだという「かつての帝国」が「夢をもう1度の想いで台頭しようとしています。

 その一方でスコットランドの分離独立運動や、スペインのバスク地方の分離独立運動もあります。日本政府と沖縄との深刻な対立から、沖縄独立論も出てくると思いますね。

 地震を予知することはできませんが、過去の地震の履歴(主に淡水池の地質から過去の津波の規模を測定する)から、未来の南海トラフ地震の規模を想定したりしています。

 またご両人は政府や財界の言う「即戦力人材教育」に警鐘を鳴らしています。
「日本では、大学は、社会に出てすぐ役に立つ学問を教えるように要望されています。それに対しアメリカのエリート大学は「すぐに役に立たなくていいこと」を教えるのです。

 それが長い目で見ると本当に役に立つ。「すぐに役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」という慶應義塾大学の小泉信三さんの言葉のとうりです。」(P225)

 英語教育を拡充すると以下、スーパーグローバルとか浅薄なことは辞めろとも言っています。「むやみに英語で授業をしても、自ら英語植民地に退化するようなものです。そもそも大学の授業を母国語で行えることは、世界的に見れば、数少ない国にしか許されていない特権です。その日本の強みを自ら失うのは、これほど愚かなことはありません。」

 教育への公共投資もOECD諸国では日本は最下位。「人文科学系の学部は廃止しろ」「一般教養は無用だ。」という反知性主義的な言動を政府や経済界がしておりますね。なんとも貧相ではないでしょうか。

 池上彰氏は、現在のリベラルアーツとして「宗教」「宇宙」「人類の旅路」「人間と病気」「経済学」「歴史」「日本と日本人」を上げています。さすがはかつてNHKの現役時代に「スーパー子供ニュース」を担当された知見がありますね。

「1人の人間が人生の中で経験できることには限りあります。しかし歴史を学ぶことによって、自分では実際には経験できないこと代理体験できる。

 こうした代理体験を積むことは、単なる娯楽にとそまりません。より直接的に、人生に役立つのです。論理だけでは推し量れない、現実の社会や人間を理解するための手掛かりになるからです。」

「読書や歴史を学ぶことで得た代理体験は、馬鹿に出来るものではありません。この代理経験は、いわば世の中の理不尽さを経験することでもあります。しかしだからこそ、社会や他人を理解し、ともに生きるための感覚を養ってくれるのです。

 何の問題も生じない円満な家庭や完璧な会社組織などこの世に存在しません。誰もが時にある種の理不尽さに直面します。こういうときこそ、代理体験が物を言う。逆に、こうじた代理体験に乏しければ、どんな成功者やエリートでも、意外に脆いものです。つまり、そういう人は「歴史」を学んでいないわけです。」(P19)

 「60の手習い」でやや遅きになりましたが、すこしづつ世界史を学んでいこうと思います。
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