「地方都市の暮らしとしあわせ」を讀んで
「地方都市の暮らしとしあわせ 高知市史 民俗編」(高知市・高知市史編さん委員会 民俗部会・編集・2014年3月刊)を4月2日に高知市片桐書店で購入しました。高知市下知地域にて新たなコミュニティづくりを企てようとしていますので、自然に目に留まりました。
ローカル本で面白いと思った書籍は「忘れえぬ人々」(入交好保・著・・高新企業出版部刊・1973年)と、「2人の特攻隊員」(大西正裕著・高知新聞企業・2008年・刊)ぐらいでしたから。
4月4日の高知新聞夕刊にも書評の記事がありました。「高知市民の姿 生き生きと」「闇市、バラック街、とんちゃん」「市史 民俗編 8年かけ完成」とあります。ローカル出版本は、総じてつまらない内容が多い(著者の自慢話が多い)駄本が大半でしたが、今回の書籍は讀んで得しました。
編集者たちの立ち位置と編集方法が素晴らしいと私は思い、購買にいたりました。それは次の言葉でした。
「日本での都市研究は、社会学、経済学、政治学など、様々な分野で行われてきたが、それらのほとんどすべては東京研究であった。地方都市と言う言葉に如実に示されるように、地方都市は東京に対しての「地方」(田舎)である、東京で起きったことや流行したことは、ただちに地方都市でコピーされる。つまり、東京を知れば、全国の都市がわかるとされ、地方都市の研究が軽視されてきたのである。」
「また、生活文化を研究する民俗学は、現代においても、「むら」などに伝えられてきた古い日本文化(民俗文化)の研究を主軸に据えているため、都市研究の視角や方法を鍛え上げることをなおざりにしてきた。
このように概括すると、わたしたちが地方都市について知り、考えようとしても、まったくといってよいほどの研究の蓄積を持ち合わせていないことに気づくはずである。」
「本書は、高知市史の民俗編であるため、高知市の生活文化とその変容を記述するものである。(中略)
わたしたちは、全国の地方都市において過去に起こったこと、現在起きていること、これから起こりえることを念頭に置きつつ、高知市の生活文化を描くことにした。つまり、高知市をケースステディとしながら、日本の地方都市の生活文化の一般性・普遍性をも浮かび上がるように執筆したということである。」(「はじめに」P2)
この書き出しの文章に魅かれて購入したと言っても過言ではないです。しかも執筆者は1人以外は高知の人ではないところが良かったんですね。調べている史実を「相対化」していくからです。
近世から江戸時代の高知城下の記録については、文献によるしかありません。戦災前の昭和初期の高知市の風情や市民生活については、高知市出身の作家宮尾登美子氏の作品や同時代に生きた高齢者への聞き取りで生き生きと描かれています。
わたしの叔母の嫁ぎ先の水谷ガクブチ店が、昭和10年から20年位の高知市商店街の1画にある古地図を見た時感動しました。高知市の商店街の栄枯盛衰のなかで老舗を守り奮闘してることは大変なことであるからです。
江戸時代に人口2万人の城下町高知市が、明治以降近代化の波に乗り発展し、1つのピークを迎えるが、空襲で廃墟となり、しばらくはバラックとの共存を余儀なくされます。敗戦後10年を経て、都市計画で街路整備が始まり、現在の高知市の骨格が出来ます。
商店街の興隆と百貨店の進出と共存、スーパーの進出と共存の時期があり、どうやら高知市中心街商店街のピークは1996年頃のようですね。2001年以降に大規模高知店法の規制が緩和され。イオンが旧シキボウ跡にできてから、商店街は衰退しました。
この本は様々な市民に聞き取り調査をされています。わたしと同年齢(1955年生まれ)の女性に聞き取りをされていて、最近の買い物動向について記述されています。
「1985年(昭和60年頃)に車の免許を取ったのですが、運転し始めたのは15年ほど前から。漁港の直売所に魚を気軽に買いに行くようになった以外は、普段の買い物に大きな変化はないですね。
郊外の大型店はあまりいきません。イオンも好きじゃない。何か殺伐とした感じがあって、ほしいものもありません。
スーパーでは何でも安いと思っている人が多いけれど、小さな八百屋さんや直売所を丹念に覗いてみれば、必ずしもそうでもない。同じことは生鮮食品以外にもいえると思います。」
「ネットや大手のチェーン店で声高に宣伝されているものだけがいいとは限らない。私は、たとえ野菜1つでも買い物に楽しみがないと嫌なんです。ちょっとのものを買っても、お互いに「ありがとう」というような、それを売っている人や空間まで含めての何かが楽しくあって欲しい。
すべてを大型店でまとめて買うことがあまり好きではありませんし、個人でお店をやっているとことは長く続けていって欲しいです」(P235「買い物と女性の暮らし」)
なかなかの「買い物達人」の1人と思われますね。「買い物に楽しみがないといけない」というのは、とても大事な言葉ではないかと思いました。
(子供時代に完成した高知大丸百貨店と中央公園)
私の子供時代の「3丁目の夕日」を彷彿させる時代背景の記述や、昭和の南海地震の記録も淡々と書かれています。
「新しい文化をつくる」旗手として、「土佐のお座敷文化を継承―発展」させようとしている濱長と土佐芸妓かつをさん、ローカルで頑張る漫画家・村岡マサヒロさん、アコーディオン奏者・坂野志麻さんなどが登場しています。
まさに新たな高知の都市文化の担い手であると思います。
かつてわたしももう23年も前になりますが、高知青年会議所時代に「都市再開発セミナー」を企画し、3年間の連続セミナーを開催していました。そして高知市は「快適都市」でなければならないと理念を提唱しました。しかし全く現実の市政からは受け要られることもなく、単に個人の思い出のなかにしまいこまれていました。
現在下知地域で「地域内連係協議会」をこしらえようとするときに、「面白おかしい・地域社会」を提唱したいと思いました。良い参考図書であったことをご報告申し上げます。
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